「手伝い?」
「そう、生徒会、仕事多い…大変」
クラスメートのカノトの手伝いを引き受けたわたしに、
「君がコトカか」
こんなことが待ち受けているなんて、いったい誰が予想したと言うのだ?
☆
「お断りします」
生徒会長、二年のシン先輩を前にして、わたしはそう告げた。余裕そうに頬杖をついている彼はわたしの言葉を聞いても特に動じることもなく、冷たい瞳でわたしを見つめているまま。夕暮れの赤が先輩の銀色の髪を染めて、月並みではあるがとても綺麗だと思った。
こよみ学園のカリスマ、シンといえば、学内で知らない人はいないだろう。このわたしだって知っているくらいなのだから。文武両道成績優秀、並の褒め言葉では足りないと言われ、神童とまで言われるその人は、生徒会会長であり、書道部の部長らしい。ヨルシカが言ってた。
「失礼します」
くるりと踵を返す。わたしは図書室に用があるのだ、これ以上生産性のない会話で放課後を無駄にするつもりはないし神童さまにも正直興味がない。
「生徒会活動に従事すれば内申も稼げるし、何なら図書室の鍵だって使い放題だよ?」
ピクリ、とわたしの指先が動いたのを、シン会長は見逃さなかったのだろう。振り向いたわたしを見る彼は、ほんの少しだけ、楽し気に見えた。ような気がした。
「何なら貸出冊数も増やせるよ」
かくして陥落の鐘は、思った以上に簡単に、鳴らされてしまったのだ。
☆
「すごおい。コトカのこと分析してるわねえ」
頭を抱えるわたしに、ヨルシカは関心したように目をまるくしていた。ヨルシカの大きな目よりまるく収められてしまったのはわたしのほうだ。あのあと見事に釣られたわたしは、生徒会への入会が決定してしまった。役職はカノトと同じ庶務。カノトはわたしが生徒会に入ることを知ってから、お花が飛んでいるかのようにご機嫌だ。かわいいけど、複雑である。
何と言えばわたしが落ちるのかを知っていたかのようにシン会長はわたしを生徒会に引きずり込んだ。内申が貰えるのは正直ちょっといいなって思ってしまうし、図書室が充実しているこの学園で、鍵や貸出冊数を好きにできるなんてそんな、そんな素敵な話はない。なんだかシン会長の掌の上で転がされているようだ。わたし、会ったの初めてだと思うんだけど。どうしてあんなに簡単に、わたしは折られてしまったんだろう。
「でも生徒会に入れる人ってなかなかいないって聞くわよ?一年ならなおさらでしょ?さっすがあたしのコトカ!」
「へえ、君のなの?」
ばっと振り返るとそこにいたのは、
「ヒノト先輩…」
「やあ、コトカ」
突然の上級生の来訪に、ざわざわと教室の一部が浮かれている。
二年生、書記のヒノト先輩。ふわふわのショートカットの髪に、蕩けそうに穏やかな色をした瞳。にこにこと向けられる笑顔があまりに柔らかくて、わたしは思わず眉をひそめてしまう。なんていうかそういう優しいその表情がむず痒いというか。名前の呼び方も甘ったるく聞こえるし、ざわざわと低音が肌を駆け巡っている感触がする。
「イケメンですね」
「ありがとう。君もかわいいね」
わたしが眉間に皺を寄せているうちにヨルシカはフレンドリー(と言うべきではない気もするけど)にヒノト先輩に話しかけている。二人のよくわからない空気は気にせず、わたしはヒノト先輩に向きなおった。
「何か御用ですか」
「んーん、前通ったから。顔見に来ただけ」
穏やかな語尾にはいわゆるハートマークがついていそうな感じで。本当に顔を見に来ただけなのか、「じゃあね」そう言ってわたしの手を取り何かを乗せて、ヒノト先輩は教室を出ていった。え、本当に何しに来たんだ。ぱっと手の平を開いてみると、
「……飴」
ころん、とわたしの手の上にあるのは飴玉がふたつ。いちごみるくなんて可愛らしい包み。なんとなく、ひとつはヨルシカ用な気がした。
「あれコトカに気があるでしょ」
「誰にでもああなんでしょ」
「んー…」
渡した飴を頬張りながら、ヨルシカは首を傾げていた。
「ところであたしコトカが生徒会入るって言うから全員のことちょっと調べてみたのね」
「ヨルシカのそれってどこから原動力来てんの?」
「聞く?」
「聞かない」
「さっきの人は二年のヒノト先輩」
「いらないってば」
「女子に優しいフェミニスト、頭もいいし運動もできるけど部活は無所属。男には厳しい。」
「ほらやっぱり誰にでもじゃん」
「んーーー?」
渡した飴を頬張って訝しげに首を捻るヨルシカをよそに、わたしは次の授業の教科書を出すことに専念することにした。