あの子を探すのが、いつしかめちゃくちゃに上手くなった。

学年は違うし、授業をしている時間に会えることなんてほとんどないけど。下駄箱の場所とか、教室の席の場所とかそういうものも確認しちゃって、ストーカーみたいだなって思ったり。移動教室の時間についつい視線を巡らせて探しちゃったり、授業の時間割が欲しくなったり。でもしょうがないじゃん。つい目で追っちゃうんだもん。



「イナミー!腕相撲しよ!」
「んー、ごめんパス」
「えー」

がやがやと煩い教室をバックに、よく俺の髪をいじっている女子たちが固まる。「どうしたの?」「なんかあった?」腕相撲断ったくらいでそんな心配される俺ってなんなんだろう。頬杖をついたまま唇を閉じたまま、んー、と声を漏らしてみる。そうして疑問を外に出してみても、うまくまとまんないな。そういうことってあんまり、考えることないんだよね。自分の感情とか、そういうの。

「かわいい子がいるんだよね」
「へえ。後輩?」
「そう。生徒会の」
「どんな子?」
「真面目で、ちっちゃくて、かわいくて、ふわふわしてて、柔らかそうなんだけどしっかりしてて…」

あれ、と、思う。俺、コトカちゃんのことこんなに挙げられるんだ。指折り彼女への印象を数えている間に、自分でもびっくりする。にやにやと俺を見る女子―ズは本当に楽しそうに笑っている。なんかちょっと怖い。女子ってこういう話好きだもんね。何組の誰がかっこいいとか先生がかっこいいとか、週替わりのメニューみたいにころころ変わる話題をたまに耳にする。

「イナミにも漸く春が来たかー」
「え?」
「あんたいつもモテるけど興味なさそうだったもんね」

春。数え途中の指を立てたまま、その言葉を頭の中で繰り返す。春、春って、恋のこと。え、俺、そういうことなのか。ぱっと桜が咲いたみたいに、俺はその言葉を受け入れる。じわりと頬が熱くなるのはまるで、春が来たみたいだった。

「…そっか、これ、好きだからか」
「出た〜鈍ちん」

頬杖をつき直すと、さっきより手に伝わってくる体温があつい。

「イナミ、初恋記念でこれあげる」

差し出されるポッキーをお礼を言って受け取る。真っ赤なパッケージをぼんやりと見つめながら、はしゃぐ女の子たちをよそに自問自答に耽る。俺、これ初恋だったっけ。というか、自分自身の恋というものを意識したのって初めてだ。女の子は小さくて可愛いし、男が守るものだって思うけど、特定の誰かを意識したことはなかった。オレに好きって伝えてくれた子の気持ちにも、ごめんねって言ってばっかりだった。

恋。誰かを特別に好きだと思う気持ち。これがそうなのか、と、他人事みたいに思う。分かり易く顔が赤くなったりとか、してないのは分かるけど、ぼんやりとコトカちゃんのことを考える思考の隙間がやけに熱い。頭がぼうっとするような甘ったるい倦怠感に身を任せたまま目を瞑って、コトカちゃんのことを考えた。ああそっかあ、俺、あの子がほしいんだ。