「おねが、も、やめてっ…くださ…!」
「やめないよ、まだ」













「あの、すみません。蛍…月島蛍を見かけませんでしたか?」

その声は良く知ってる。でもその男の名前は知らない。振り向いて、姿を確認してもやっぱり声の主そのもので。なのに、妙によそよそしいというか、申し訳なさそうにしているその表情はいつも一緒にいたコトカからは想像もつかないものだった。
それに俺の前で知らない男の名前を呼んで、しかも恋人である俺にその男を見てないかを尋ねるなんてあり得ない。

「そうですか…すみません、ありがとうございました」

知らないと答えると寂しそうに眉を下げる。そんな顔を他の男のためにするの?ねえ、俺のこと忘れちゃったの?

「待って」

気づけば別の場所に行こうとするコトカの肩を強く掴んでいた。
驚きと怯えの混じった顔。ねえ、どうしてそんな顔するの?ちゃんと説明してよ。コトカのことになると俺が平常心でいられないこと知ってるよね?

「あの、何か…?」
「俺のこと分からないの?」
「え?」
「君の…コトカの恋人だよ」
「コトカ、さん…?いえ、わたしは篠原里奈ですけど…」

記憶喪失…ではない、よね?
ツキシマケイにシノハラリナ。聞き覚えのない名前。でも目の前にいるのは間違いなくコトカ。

「ちょっと、詳しく話聞かせて」
「え、」
「その様子だと手掛かりまだないんでしょ」
「それは…」
「それに、その体は俺の大事な人なんだ。だから、協力させて」

しばらく迷っていた目の前のコトカは『分かりました、お願いします』と丁寧にお辞儀した。







目の前にいるのはヒノトさん、と言うらしい。しかも王子様だとか。本当に王子様なんているんだ、なんて思っている暇はなくて。ヒノトさんからされる質問に答えていく。
肩を掴まれた時は少し怖かったけど、今はコトカさんのことが本当に大事で、すごく心配なんだって伝わってきて怖さが薄れた。
それに、本当は体や声に違和感があった。自分の声じゃなくて、着ているものも違って、知っている場所でもなくて…不安で仕方なった。蛍に会いたくて会いたくて仕方がなかった。

「話を聞かせてくれてありがとう。君も不安だったよね」
「いえ…その、すみません」
「どうして謝るの?」
「ヒノトさんもいきなり恋人が自分の知らない人の名前を呼んだりされて戸惑われましたよね…」
「そうだね…でも君の話を聞いて可能性の話だけど、コトカと君は意識だけが入れ替わってるんじゃないかって思う。原因は分からないけど、もしかしたら不思議な力が働いたのかもしれない」

ヒノトさんの部屋に案内されてすぐに見せられたのは鏡。そこにはやっぱり違和感の通りに自分とは違う人が鏡に映っていた。けどわたしが右手を動かせば右手が動いて、首を傾げれば首を傾げる鏡に映る人。それはヒノトさんの言った通り意識だけがなんらかの原因で入れ替わってしまったというのがしっくりくる。
原因はヒノトさんにもわたしにも分からないけど、ヒノトさんたちのいる世界はそういったことが頻繁ではないけど起こることがあるみたい。

「ちょっと試してみたいことがあるんだけど、いいかな?」
「何ですか?」
「良くあるじゃない、意識を失ったらもとに戻ったみたいな話」
「それは、わたしが意識を失ってみるってことですか?」
「そ。君は察しがいいね。そういうとこコトカにちょっと似てる」

やわらかく笑うヒノトさんに対してわたしは胸がざわついた。意識を失うって頭を強く打つとか、そういった痛みを伴うことしか思い浮かばない。けど、ヒノトさんがコトカさんを傷つけるようなことはしないはず。だったらどうやって意識を失うの…?

そう思っていると急に目の前が暗くなった。何かやわらかいもので視界を塞がれている。

「コトカの体、すごく敏感なんだ」
「え…」
「コトカの体を傷つけずに意識を失わせる方法、消去法でいったらこれしかなくて」
「あの、それって…」
「コトカを抱くってこと。でも意識は違うから目を隠した方が少しは君の抵抗というか、背徳感?が少なくてすむかと思って」
「ヒノトさ、ちょっと待ってくださ、」
「ごめんね、待てない。君だって早く戻りたいでしょ?」

そう言われると反論出来ない。でも、いくら自分の体じゃないとはいえ意識はわたしだ。視界を塞がれても、感覚はある。そんなの、そんなの…

「あっ…」

わたしが戸惑っている間に畳の上に押し倒されて、今度は手の自由を奪われた。動かそうにも何かに括りつけられているのか縛られたものの長さ分しか動かせない。

「怖いよね。でも、痛いことはしないって約束するよ」

優しい声が今は怖い。蛍、蛍…心の中で沢山蛍の名前を呼ぶけど意識は戻らない。













帯を解くと胸元には俺のつけた印が薄く残っていた。それは確かにコトカの体で、意識だけ違う。それがこんなにも切ない。意識だけ入れ替わってしまった彼女もきっとそうだろう。今だって彼女からしたら初対面の男に抱かれることになる。それは俺よりも辛いことだと思う。

そっと素肌に手を当てると小さく肩が動いた。コトカの白くてやわらかい肌。何度抱いてもその感触はいつも俺を飽きさせることはなくて、俺の心をいつも疼かせる。
彼女は声を出さないように、けどコトカの体を傷つけないように唇を噛まないで必死で口をつぐんでいる。俺がコトカのことを大事にしていることが伝わったことが嬉しくもあり、こんな状況でもコトカを傷つけまいとする彼女の優しさに、早く彼女を彼のもとへと返してあげたいという気持ちが強くなる。だから、どうかこれ1回でコトカが、彼女がもとに戻りますように。

「…ありがとう、コトカを気遣ってくれて」

コトカの弱いところに触れると体が少しずつ熱くなっていく。優しく、怖がらせないように。痛みよりも気持ち良さが勝るように。首筋から下へ唇を押し当てたり、舌を這わせたりする。小さく聞こえる鈴虫のように高くて、でも甘さを帯びた声に誘われるように俺はコトカの体に触れていく。
膨らんだ胸の先はかわいくて、舌で転がすように愛でる。もう片方の胸の先は指先でいじめる。ぴくぴくと反応するコトカの体は俺を覚えているみたいだ。それが嬉しい。

「ふ、ぅっ…」

声を出さないように我慢するその小さな吐息さえ愛おしい。
俺の唾液で濡れた胸の先はなんとも言えないいやらしさ。熱を帯びた体からは汗が出てきていて、それを舐めとりながら胸からお腹へと舌を這わす。手は足を焦らすように下から上へ撫でる。そうして舌と手が交差する場所へと同時に着く。
指先で触れるとちゅく、と湿った音がした。それと同時にさっきよりもコトカの体が跳ねる。ゆっくりと指を湿ったそこへ入れながらその入り口の上にある硬くなったそれを口に含んだ。

「っ、あ、」

口に含んだそれを胸の先と同様に舌で転がしたりつんつんと刺激したりしながら、中に入れた指を動かしてやわらかくしていく。少しずつやわらかくなっていくそこに指を増やして気持ち良さを高めていく。

「おねが、も、やめてっ…くださ…!」
「やめないよ、まだ」

それは意識を失う一歩手前だよ。

十分やわらかく湿ったそこを確認するとコトカの腰を少し持ち上げて、足を少し開かせて解したそこに俺のをあてがう。小刻みに震えるコトカの体はこれから来る気持ち良さという刺激をもう分かっているみたいだ。
湿った音を立てながらコトカの中に入っていく俺。きゅうきゅうと締めつけるコトカの中はとろとろで、熱くて、持っていかれそうになる。

「くる、しっ…」
「息、ゆっくり吐いて」

呼吸を止めそうな彼女に呼吸を促す。彼女の呼吸が整うまで俺は動かずに待った。正直に言えば本当は動きたくて仕方なかった。けど、痛くしないって約束したから。

「そう、いい子だね」

『必ず戻るよ』そう言いかけてやめた。
なんでそう思ったのか分からない。けど、何だか戻るような気がして。でもそんな不確定なことを伝えてしまってもし戻らなかったら、彼女はきっと傷ついてしまうだろう。
だから余計な言葉は伝えず、意識を失う手伝いをする。

「ひぁ、あぁあっ…!」

締めつけがきつくなって、声も1番甘くて、熱もこれ以上上がらないところまできている。
コトカの体が脱力するまで俺はコトカの中の弱いところばかり突いた。













意識を失ったコトカの視界を塞いでいた布と、手を拘束していた布を外した。
キスもしてないし、印も残してない。意識のみ入れ替わってしまった彼女へのせめてもの配慮、と言っていいのかな…

コトカを抱きしめながら髪を梳けばやわらかな感触。俺の、大好きなコトカ。
お願い、1秒でも早く戻ってきて、コトカ。じゃないと俺、寂しくてどうにかなりそう。

「…ん、」
「コトカ…?」

意識を失ってからしばらくしてコトカの目がゆっくりと開いた。

「ヒノト?」
「うん、君の恋人のヒノトだよ」
「何それ…って何で裸なの!?」
「ふふ、コトカ」
「笑ってないでちゃんと説明して!」
「愛してるよ、コトカ」

愛おしいコトカに深いキスを。
それから、印を沢山、沢山刻ませて。