ふう、っと、水面に浮くような感覚。それが目覚めた感覚だとぼんやりとした頭で理解しようとして、自分の思考がひどく重たいことに気付く。寝起きだということを差し引いても、まるで水を吸ったかのように、ずしりと重たみを増している。ところでわたしはいつ、床に入ったんだったか。ひとまず体を起こそうと、そこまで思考がやっと行きついたというのに、体がちっとも動かない。まず布団の外へ手を出そうと気力を総動員してみても、ちっとも、指の一本すら動かない。まるで夢の中で体を動かそうとしているみたい。得体のしれない力に体を支配されているようで、すこし、気持ちが悪い。

「…ああ、起きちゃった?コトカ」

水の中にいるみたいに。ぼんやりとした音で声が届く。重たいまぶたをなんとか上げて、声の主を見ようとする。ふわ、とかいだことのある香りがして、辿りつかない視線を察してわたしのことを覗き込んでくれたのだと知った。

「ヒノ、ト…?」
「……ちょっと強く焚きすぎちゃったかな、体動かないか。ごめんね」

ぼそりと小さく呟かれた声が、きこえない。体の全部の機能が低下しているみたいだ。声は拾えない、手は動かない、瞼だってこんなに重たい。何て言ったの、って聞きたくて、ゆっくりと視線を彼に合わせようとする。

「何でもないよ。ゆっくりおやすみ」
「わたし、しごと…」
「いいよ、そんなの」

そっとわたしの頬を、髪を、撫でる手が心地よくて、ますます体が重たくなる。頭がますます霞がかったみたいにふわふわして、ねむくてねむくて、ぼやけた目から涙が出そうになる。

「でも…」
「いいから、ね」

目の前が暗くなる。なんでだろう、目を閉じたらだめだと思うのに。真っ暗にされてしまった視界は、簡単に落ちてきて。わたしの意識は柔らかい泥の中に沈むように、かたちを亡くしていく。

「愛してるよ、」

ああ、声が、きこえない。からだがうごかない。世界がどこにあるのか、どっちが上なのか、わからない。