眠るコトカの内腿に印を残していく。足に伝った液を舐めとりながら吸い上げると眠っているのにコトカの体は反射的にぴくりと震える。それがたまらなく愛おしくて、全身に赤いそれを刻みたくなるけどコトカの白い肌が好きだからそれは出来ない。代わりにそっと甘噛みを。うっすらと残った自分の歯形に頬が緩んだ。

「コトカの世界は俺だけで十分」

とろとろに溶けたコトカの体を綺麗にして、風邪を引かないように濡れて皺になってしまったコトカの着物の代わりに自分の着物を羽織らせて抱きしめた。

『どこに行くの?』と部屋から出ようとしたコトカを腕の中に閉じ込めたのはどのくらい前だったか。
『ねえヒノトどうして?わたし逃げないから、出して…出して…』と言うコトカの目を手で塞いで『ダメだよ、コトカは俺のだから他のもの見ちゃダメ』とその時に言った。そんなコトカは今では俺の帰りをこの部屋でじっと待っててくれる。
俺以外を見ないように、俺以外の声が届かないように、俺以外の温もりを感じさせないように愛した。コトカを沢山沢山抱いた。頭の先から爪先まで全部を文字通り愛した。心ももちろん。俺の愛を受け入れてくれたコトカを俺はもっと好きになった。

「それなのに、あいつらおかしいよね」

ここに来る前のことを少し、思い出した。







定期的にカノエ、カノト、イヌイ、そして俺で集まる機会がある。理由は城が近いから。今回はイヌイの城で集まることになってたから行くのが億劫で仕方なかったけど渋々と行った。
街の状況や今年の物の怪神楽について文書では手間取るものの情報交換などをし、お互いの認識を深めていくそんな中でも俺の頭の中にはコトカがいて、早くコトカに会いたいな、早くこれが終わればいいのになんて思ったりした。

ようやく話がなから終わり帰れる、そう思って立ち上がった瞬間、カノエがいつもより一層難しそうな顔をして俺に声をかけてきた。

「ヒノト、お前おかしいぞ」
「何のこと?」
「…コトカのことだ」

その名前にぴくりと隠れている眉が動いた。

「別におかしくないよ。ねえカノト」
「…ううん、ヒノト兄、なんか変、だよ?」
「カノトまで」

二人が俺を見る目には心配とそれ以外の何かが宿っていた。

「別に俺はどこもおかしくも変でもないよ」

そう言ってその場を去ろうとしたのに、いつの間にか入り口にイヌイが立っていて道を塞いでいた。

「ちょっと邪魔なんだけど」
「ヒノト兄執着しすぎなんじゃねえの」

いつも軽口をたたく時とは違ったイヌイの表情。君まで何なの、気持ち悪いんだけど。

「君には関係ないでしょ」

冷たく言い放ったはずなのに、イヌイはそのまま表情を変えず俺を見据えて言葉を続けた。

「関係なくねえよ」
「何?イヌイ、コトカのこと好きなの?許せないなあ…」
「てめえ…!」

『そういう事を言ってんじゃねえんだよ!』とイヌイは珍しく声を荒げて俺の胸ぐらを掴んできた。
今にも殴りかかってきそうなイヌイに冷たい視線を落とすと本当に拳が向かってきた。けれど、イヌイの手をカノエが止めて、カノトもイヌイの体に腕を回してそれ以上イヌイが動かないようにした。

「イヌイ、殴っても解決にはならないだろう」
「そうだよ、落ち着いてイヌイ」
「分かってるよ!だがな、こいつはお前らのこと無下にしてんだぞ!?」

無下?そんなことしたつもりないけど。話にならないね。
乱された着物を整えて俺は「じゃあ帰るね」と三人が引き止める声を無視してコトカの待つ部屋へと足を速めた。








「少しだけのはずが全部思い出しちゃった…全く…」

けれど、それを払拭してくれるかのように部屋で待っていたコトカは『ひのと、おそい』とすがりつくように俺の腕に擦り寄ってきてくれて、コトカの髪を梳くと気持ち良さと熱ぽっさが宿った瞳で俺を見つめた。
それからはまたコトカを沢山愛しながら気持ち良さを与えて、ずくずくとコトカの中に俺を沈み込ませて。お互いにお互いに溺れていった。


俺の腕の中で眠るコトカの頬や髪に触れる。

この感触コトカは俺だけのもの」