「姫、お餅、作った。食べる?」

ひょこりと襖を開けて顔を出したカノトは、襖を閉めるまえにあ、と口に指先を当てて眉を下げた。

「じゃ、なかった。食べますか?」
「ありがとう、いただくね」

微笑んで見せるとカノトはきれいな瞳をふわりと綻ばせて、おいしいよ、じゃなかった、おいしい、です、よ、と、確かめるように発音した。辿々しいそれが可愛らしくて、わたしは釣られるように笑ってしまう。

「ごめんなさい、僕、カノエ兄にいつも怒られてるのに」
「いいの。そのままでいい」
「でも、姫はお姫様で、僕たちのなかで一番偉いんだよ」
「偉くとも、皆がいなくても何もできない」

ふと、目を伏せる。自らの指先に視線をやる。軽く握って、開いて、体温が馴染むのを確かめる。頼りない体温は風に吹き晒された蝋燭の火のよう。わたしがこうして目を伏せている隙にそっと拐われて、握りつぶされたっておかしくないくらいの、小さな小さな光だ。じゅ、と。風の掌に押し圧されたところで、その悲鳴はきっと誰にも届かない。



睫毛は銀色。羽のようにきらきら綺麗なのに、その羽を、彼女はひどく重たげに伏せていた。
僕たちを統べるおんなのこ、は、とてもとても繊細で、細くて、いいにおいがする。
そんな小さな女の子は、きらきらひかる睫毛をふるわせて、どこか僕たちじゃあどうしようもないところを、見ているようにみえた。
さみしい?つらい?くるしい?そういう顔をしていると思うけど、僕にはわからない。僕はどうしたら、いいんだろう?



せきりょうたなびくどうしょく