熱を出した。襖の外で、従者たちがばたばたと慌てていた。

何をするでもなく、布団の中でぼうっとしていた。頭に当てられた氷はすっかり溶けてぬるま湯と化している。そう意識すると途端に煩わしくなって、頭を動かしてそれを布団へと落とした。目なんて瞑らなくても視界はぼやけてぐらぐらしているし、だるいし節々は痛いし、溜息なんかで収まらない憂鬱を、溜息で吐き出した。俺に残されたできることと言えば、溜息をつくだとか、天井のシミを数えるだとか、そんなくだらないことばかりだ。なんて絶望的な憂鬱。ずき、と頭まで痛み始めて顔を顰めた。結構熱が高くていらっしゃる。おかわいそうに、お辛いだろうに。そういうのは、俺に聞こえないように言ってくれないかな。苛立ってきた思考を宥めるように目を閉じると、俺が持て余している熱が思った以上に高いことに気が付いて、げんなりする。

ふわり、と。髪を撫でられるような感覚。何だろう、と思うのに、目が開かない。瞼が重い。決して嫌な感覚ではなくて、だからこそ目を開けて確かめたいのに、熱がそのまま重りになったみたい。ふわふわと軽い手つきが、俺を宥めるみたいに柔らかく髪を梳いていく。

髪を掻き分けられる感覚。額が外気に触れて、少しだけひやりとする。そして額を覆うように何かが被さって、汗ばんだそこを撫でる。ああ、俺今、汗かいてるのに。そう思って、その汗を拭う仕草が人のものだということに気付く。柔らかい、手の感触のあと、ふわりと湿った柔らかい感触が額に触れる。それを知覚した瞬間、全身の怠さが抜けていくような、気がして。

「がんばれ、丁」

ふわりと鼻孔を擽ったのは、あの日の香りだった気がした。





「早く熱が下がって良かったですね、ヒノト様」
「…うん、」

従者たちに驚かれるほどに早く回復した俺は、回復力がどうとか、免疫がどうとか言われたけれど。腑に落ちないまま、そっと額に触れていた。






「難儀だなあ、人間は」

指先で取り去った熱をふう、と吹いて捨てる。辛かったろうに、泣き言ひとつ言わず床に伏す丁がかわいそうで、思わず寄ってしまった。
丁の城の屋根の上。今日は風があってなかなかに気持ちの良い気候だと言うに、布団の中で過ごすなんて。まあ、あの深い眠りでは、布団から出られるようになるのは明日になろうけれど。

奴はわたしが視得る人間であろうけれど、今日はきっと朦朧として、覚えてはいないだろう。それでいい。

微かに熱の残る指先を両唇で食んで、立ち上がる。



ざあ、と風が吹き抜けた後には、城の屋根の上には痕跡すら残っていないのだ。