傍らに大好きな人の温もりを感じながら夢を見る。ううん、これは夢というより記憶だ。
忘れもしない、あの日の記憶。大好きなコトカの緊張する顔、必死に押し殺していた声、やわらかくて手に吸いつてくる肌、重なりあった肌や唇の感触に熱。あの日のことが鮮明に映しだされてくる。






「い、いな、み…」

顔を赤くして少し震える声でオレの名前を呼ぶコトカ。
見慣れたはずの自分の布団の上にコトカがちょこんと座っている。たったそれだけなのに見慣れない景色を切り取って貼りつけたみたいな感じがして、どくんっと心臓が大きく鳴り動く。脈がそれにあわせるように少しずつ速くなって、体温があがって、汗ばむ。まだ触れていないのにこんなになるなんて…

「こわい?」

座って、同じ視線で問いかける。くっつきそうな膝と膝の間の空気があたたまる。いつもと違うことが一つそうして増える度に心臓が速まる。ああ、オレってこんなに理性を保てなかったっけかなって自問自答。コトカに触れてしまえばコトカの返答を待たずに抱いてしまうかもしれない…そんな危うい自分がいることが情けない。

コトカは小さく首を横に振って、「緊張してる」とまだ震えの残る声でそう答えてくれた。
こつん、と自分の膝をコトカの膝にくっつけた。着物越しなのにお互い熱くて。でもそれが同じ気持ちからくるものなのかもしれないと思うと嬉しくなる。

「ね、頬に触れてもいい?」
「うん、」

ほんのりと色づいたコトカの頬に手を伸ばして、そっと触れる。じんわりと手のひらにコトカの体温が広がっていく。目を伏せたコトカの長いまつ毛は時々揺れる。それがかわいくて気づけばそこに唇を押し当てていた。分かりやすく体に力が入るコトカ。ああ、そんなところもかわいくて、オレ本当にコトカのことが大好きなんだって感じた。

「コトカかわいい」
「そん、なことない…」
「本当のことだよ」

だって、本当にかわいくて愛おしくてずっと腕の中に閉じ込めておきちゃいたいくらいコトカのことが大好きで、誰にもこの気持ちは負けないって思ってるし負けるつもりもない。それにコトカのことで知らなかったことをもっと知りたい。コトカの全部をオレに教えてほしいし、さらけ出してほしい。

「コトカ、大好きだよ」
「わたしもイナミが、すき、」

そっと重なる唇。口づけは何度もしたはずなのに初めてした時みたいな緊張と高揚感が体中の神経に走る。
触れるだけだった口づけから少しずつ深い口づけに変わって、唇が互いの唾液で濡れて舌の熱さがダイレクトに伝わってくる。漏れ出すコトカの甘い声に嬉しさが込みあげてちゅう、と舌を吸った。
甘さも熱も増して、オレに伸ばされていた手に力が入って。唇を離せば熱い吐息が唇をかすめて。とろんとした瞳がオレを静かに誘う。

「コトカ、好き、大好き」
「ん、いな、み…」

とさりと布団にコトカを押し倒して、まだ力の入ったままのコトカの布団に広がった艶があって指通りのいい少しだけふわっとした髪をそっと撫でる。髪の先まで熱いなんて感じるのは自分の体温がまたあがったせいなのかもしれない。

「痛かったら教えてね、コトカ」
「ん、」

首に腕が回ったかと思ったら少し引き寄せられて恥ずかしさを隠しながらコトカから口づけられて、耳元で甘くなった声で「すき」と呟かれて。ああ、こんなにかわいいコトカをまだ知らなかったんだと思ったとほぼ同時に布団にコトカを縫いつけて隙間のない深い口づけを何度も繰り返した。