あの日から優しい口づけが深いものに変わって、わたしの舌はハナレさんの舌の感触と熱を覚えた。





「っ、ふ、…ハナレ、さ…」

触れる口づけだけじゃ足りなくなったと言ったハナレさんとこの深い口づけをするのは何度目だろう。会う度に深く口づけられて、わたしの心臓は速くなる一方だし、体が熱くなって仕方ない。それなのに、ハナレさんの表情はそんなに変わらなくて。たった二つ。わたしが年下なだけなのに、この差は一体なんなんだろう。

「コトカは本当にかわいいな…」
「んっ」

そう言ってまたその表情とは裏腹な熱くて口内を侵食するような深い口づけを繰り返す。
夜の、ハナレさんの部屋。薄暗い部屋で何度も舌を絡みとられて、わたしはもう腰を抜かしてしまいそう。いつの間にかハナレさんは私の口内や舌の弱い所を知り尽くしていて、息も出来ないほどのそれでわたしの脳を溶かしていく。

ハナレさんの布団の上。わたしはそこに横たわって、上にハナレさんがいて。息継ぎの間に離れた舌と舌がわたしたちの唾液で繋がって、途中でぷつりと切れる。ぼやける視界に入り込んでくるそれが恥ずかしくて、目を閉じれば溜まった涙が重力で下に流れる。

「コトカ、今日からまた一つ進むぞ」
「え?」

わたしの涙を指で掬ったハナレさん。目を開けるとそこには優しく微笑んだハナレさんがいて、きゅうっと胸を締めつけられた。ああ、わたし、本当にハナレさんが好きだ。
でも、また進むって次は何をするの…?そんなわたしの心配を見透かしたハナレさんは優しくわたしの髪を梳いて、安心させるように優しく瞼に唇を落とした。

「コトカの首から下を触る」
「そ、れは、」
「大丈夫だ。まだ直接は触らない」

まだ、という言葉がこの次のことを溶けた脳でも想像出来た。けど、すぐにその想像はわたしの首に触れたハナレさんの指先で霧に隠れてしまった。

「っ、」
「コトカのこともっと知りたい」

甘く囁かれる言葉と思っていた以上に熱を持っていたハナレさんの指先にわたしの体はぴくりと動く。
ハナレさんは耳元で囁きながらゆっくりとわたしの首に指を這わせる。ただ、それだけなのに体の熱が上がっているような気がして、わたしは漏れる声を必死に抑えようとした。

「コトカの体、熱い」
「は、なれさんが、」
「ああ、俺が触れてるからな」

色気を帯びた瞳と視線があう。ハナレさんの、表情が少し変わって、戸惑うわたしと胸を締めつけられるわたしがいる。首を触り終えたハナレさんの指は私の鎖骨へと伸びる。寝間着越しとはいえ、寝間着は普段着ている着物より薄くて、そこに隔たりがあるとは思えないくらいハナレさんの指の熱が伝わってくる。

「コトカの鎖骨」

ハナレさんは触れる場所を声に出しながら確かめるように触れていく。その声と、指先の両方でわたしも自分のどこに触れられているかを脳に刻み込まれてより一層恥ずかしさが増す。

「…コトカの胸の先」

かあっと熱くなる顔。小さく跳ねる体。優しく触れられた指先はしばらくすると楽しむようにそこを弄り始める。
こんなの、声、抑えられない。

「や、はな、んんっ」
「寝間着越しでも立ち上がってるのが分かる」
「あ、あっ…はず、かしっ、」
「かわいいよ、コトカ」

甘い甘いハナレさんの声が耳元で聞こえるのに、少し遠くに感じる。
おかしくなっちゃう。ううん、もうおかしくされているんだ。ハナレさんに、わたし。

お腹も背中も、爪先も太腿もお尻も、全部。寝間着越しにハナレさんに触れられて、もう熱くてたまらない。

「最後はコトカの一番恥ずかしいとこ」

寝間着の間からハナレさんの手が忍び込んで、下着越しに私の足の間にあるそこに触れた。

「ひんっ、」

今までにない感覚。自分でもそんなに触れない場所に今、ハナレさんの指が触れている。
恥ずかしさと与えられる感覚に板挟みにされたわたしの理性はぐらぐらと揺らいで、少しずつ傾いていく。

「熱い、な」
「あ、ぅ…や、やめっ」
「やめない」
「はなれ、さっ…!」

やめてほしくてハナレさんの手を足でぎゅっと挟んでみるけど、思ってた以上に力は入らないし、ハナレさんの指までは止めることは出来なくて。わたしの頭は白んでいく。

「あ、あ、や、こわ、いっ」
「大丈夫、俺はここにいる」

深く口づけてくれるハナレさん。

「な、んか、あっ」
「なんか?」
「き、ちゃ…っ」

ハナレさんの指がさっきよりも速く動いて、何かをわたしに差し出そうとしている。
その感覚が怖くて、ハナレさんの寝間着をぎゅっと握れば額をくっつけられて、色気と熱を孕んだ瞳で見つめられた。

「コトカ、イっていいぞ」

いく?それって、この感覚のこと?

「ひ、あ、…っ、ああ…っ!」

わたしの知らないわたしの場所。そこを強く押し潰されてわたしの頭は真っ白になった。