封印された少年
蝶の後に続き、森の中を進んで行くと見覚えのある御神木を見付けた。先に進んでいた蝶は、まるで「私が伝えたかった場所は、此処だ」告げている様、忙しなく宙を飛ぶ。
「……」
草木を掻き分けて辿り着いた御神木。先程まで、忙しなく飛び回っていた蝶が、今は落ちついた様に優雅にゆらゆら舞う。そして、先程の井戸の中の時みたく蓮の肩で羽休みをする。蓮は、一度蝶へ視線を向けるが、直ぐ御神木の方へ視線を向ける。
御神木に一本の矢で磔られた赤い衣を纏った少年が静かに眠って居た。太いキやツルの伸び具合からして、少年が眠りに就いてから、長い月日が立っている事が分かる。私は、そっと少年へ近寄る。銀の髪から覗く人間ではまず見ない獣耳。蓮は、じっと少年の寝顔を見詰める。少年から匂う、人と妖の入り混じった匂い。彼は、人と妖の間で生まれた半妖か……。何とも珍しい。好奇な視線を向けながらも眠っている少年を良い事に、蓮は、少年の頭から生えている獣耳を触ろうとした時。
「そこで、何をしている!!」
森の向こうから大きな怒鳴り声と共に、年老いた二人の男が此方へ駆け寄ってくる。
「此処は、禁域じゃぞ」
「他国の者か!?」
男二人は弓を構えたまま警戒する。
「おい、そこの者! そいつから離れて、此方へ来い!!」
興奮した声音と乱暴な口調で此方へ来いと促す男達を前に、蓮は抵抗する事なく、あっさりと少年から離れて男達の方へ近づく。抵抗もなく素直に応じる蓮を男達は、一度呆気に取られたものの、直ぐに気を取り戻し、持っていた縄で蓮を縛り上げた。
私を捉えた男達へ連れられてやって来た来た小さな集落。
「犬夜叉の森に居たと……」
「奇妙な着物を着た小娘じゃ」
私の背格好等を見て、ざわざわ騒ぎ立てる村人達を他所で、蓮は、何処かぼんやりして居た。其処へ、一人の眼帯を付けた隻眼の老婆がやって来た。
「おぬし、何者だ。何故、犬夜叉の森に居た」
老婆の問いかけに、蓮は応じる事なくただじっと老婆を見詰める。
「ん……? 顔を良くお見せ」
私の顔を覗き込む様に見詰める老婆を前に、蓮は首を傾げる。
「気の所為か……。一瞬、桔梗お兄様に似ていると思ったんだが……」
「……?」
老婆の表情が一瞬のみ悲し気な表情を浮かべたが、直ぐに元の表情に戻り、私を縛り上げている縄を解くよう村人達へ呼びかけた。
*
縛られていた縄を解かれて、老婆……もとい楓の家へやって来た蓮は、先程、楓が口にして居た「桔梗お兄様」について話を聞いて居た。
「わしの兄は桔梗……と言ってな、村を守る巫覡だった。もう、50年も昔……わしが子供の頃に死んでしまったがね」
鍋に作られている具沢山の味噌汁をお椀へ注ぐ、楓の横顔は悲しげだった。
「ほら……」
具沢山の味噌汁を注いだお椀を渡す楓に「ありがとう」筆談で礼を伝えてお椀を受け取る。
「どうした、食べんのか?」
お椀を受け取ったまま、今迄経っても口を付けない私を楓が首を傾げて困った表情を浮かべる。
「毒なんて入れては居らんからお食べ」
優しげな微笑みを浮かべる楓を前で、蓮はお椀へ視線を向けると、筆談では無く「いただきます」小さな声で呟いた。
「して、お主は何処から来たんじゃ。見た所、不思議な身なりをしているが……?」
「……東京って所から来ました」
「東京……? 聞いた事がないな……。それが、お主の生国か」
まあ、東京を知らなくて当たり前か。この時代に東京なんて地名は存在しないのだから。蓮は、汁を啜りながら楓の問いかけに小さく頷く。
「まあ、そろそろ帰らないと家族が心配するので……」
帰る術を知らない今、どうやって元の時代へ帰れるかと考える。最初にこの時代にやって来た井戸を辿れば帰れる筈だが、井戸から此処までやって来た道筋がイマイチ分からない。この時ばかりは、自身の方向音痴さを憎む。
「……」
汁に口を付けたまま、考え老けていると外が騒がしい事に気が付く。
「何事だ?」
楓が立ち上がり、入り口に掛けてある藁をどかして外の様子を伺う。私も食べる手を止めて、楓の背後に立って外の様子を伺う。
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