降り止まぬ雨に全てを流して

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緋色の瞳

男達の元を離れて、彼と共に街をフラフラと散歩をする。
そんな、彼を街の市民達は置く筈も無く、相談の声を掛ける。
「お坊っちゃま! どうか、お知恵をお貸しください。この鉢植え、一月経っても芽が出ないんです」
「うちの子、小学校に通い始めたんですが。どうも数字に疎くて……」
悩みを打ち明ける人々に、彼は嫌な顔を一つも見せず、的確なアドバイスを助言する。
そんな彼の姿を直ぐ側で見つめて居た私は、溜息を静かに吐く。
今も昔も変わらず親切な子。あんなに、誰彼構わず悩みの相談を聞いてて疲れないのかな。
少しだけ彼の事が心配になった私だったが、自分がこの世界で唯の傍観者でしか無い事を思い出す。
唯の傍観者である私が、彼の心配をするなんて可笑しいか。
自嘲の笑みを浮かべて、私は一歩下がった場所から彼の姿を見詰めていた。
そんな時、一台の馬車が私達の前で止まった。
「こんにちは」
見た目、私と変わらないぐらいの少年が馬車から顔を覗かせる。
「……まぁ。アルバート様! お出掛けだったんですか?」
「ええ。復活祭休暇中
イースター・ホリデーちゅう
の課題の為に、貸本屋まで」
貴族なのにも関わらず、アルバートは物腰が柔らかく笑顔で市民達と雑談を楽しむ。
そして、私達の方へ更なる優し微笑みを浮かべた。
「……乗っていくかい? 一緒に家へ帰ろう」
「はい、兄さん」
アルバートへ向けて返事をする彼を尻目に、私もコクリと一つ頷いた。
馬車に乗り込む二人の姿を見た市民達が、疑問気に話し込む。
「……誰だい? えらく品の良い子らだ」
「何言ってんだ。モリアーティ伯爵家の御子息方じゃないか」
「ほぉ……大きくなったものだ」
「長男のアルバート様に……ええと……もう一方は、次男のウィリアム様かな……?」
一人の市民は、あの家は立派だと言う事を男に話す。
しかし、ある疑問だけが心の中で残るも、男は直ぐに興味が無くなってしまったのか考える事を辞めた。