たいして好きでもないお酒をグッと煽らなきゃいけないくらい今日は朝からついていなかった
朝寝坊してギリギリで飛び乗った電車は満員でお昼に食べるつもりでいたメロンパンは見る影もなくぺちゃんこになっていて、やっとの思いで会社についたらお気に入りだったピアスが片方なくなっているし、先輩のミスを私のせいにされて上司に怒られるし、やっと帰れると思っていたら後輩が合コンに行くために残していった仕事の責任を果たすためにフロアに最後の1人になるまで残業して、警備の人に注意されるし
踏んだり蹴ったりとはまさにこの事なんだろう
唯一の救いは今日が金曜日だったということだ
何もかもに疲れた私は気晴らしがてら夜の街にこぎだし初めてお洒落なバーの扉をくぐった
少し背の高いカウンターの端の席に案内されおすすめのカクテルを注文する
優しそうなマスターに今日会ったことをポツリポツリと話していたら隣からふふっと笑い声が聞こえた
1つ間を空けたその席にはどこかで見たことあるような男性が1人で座っていて目が合うとすみませんと謝られた
『いえ、こちらこそ変なお話聞かせてしまって・・・』
「災難な1日でしたね、お疲れ様です」
そう言ってグラスを少しあげた男性につられ私もグラスを掲げる
「良ければお話しませんか?」
普段ならナンパだなとスルーするところだが不思議なことにこの人からはそんな気が少しもしない
『ぜひ、私なんかで良ければ』
しばらく2人で話していると気を遣ってくれたのかマスターは違うお客さんの前へ移動していた
『なんか、私の話ばかりですみません、つまらないですよね』
「そんなことないですよ、えーっと・・そういえばお名前伺ってなかったですね!聞いてもいいですか?」
『そういえばそうですね!名字なまえといいます。私もお伺いしていいですか?』
お互い名前も知らずに話していたんだと思うと少しおかしくて笑ってしまった
名前を聞くとなんだか微妙な表情のあと星野源と名乗ってくれた
星野源??
『ってあの星野源さん?え、うわーすみません、こんな一般人の無駄話に付き合わせてしまって』
「あ、知ってくださってたんですね。顔を見ても驚かれなかったので知らないのかと・・」
『知ってますよ!もちろん!まさかこんなところで会えるなんて思ってもいなかったので、他人の空似かと・・・』
そういうとまたハハとくしゃりとした笑顔を見せてくれる
「なまえさんのお話とっても楽しかったですよ?久しぶりに楽しいお酒が呑めました。ありがとう」
『いえいえいえ、こちらこそですよ!こんな機会もう二度とないですもん!貴重な経験ありがとうございます!』
「二度となくないですよ!まぁなまえさんが良ければ・・だけど」
連絡先でもなんて言われてびっくりして反応が遅れてしまった
『えっと私なんかでよければ』
連絡先を交換した後も2人で話していたがいつもと違う環境と楽しさのせいで思ったよりも酔いが回っていたらしく帰ろうと立ち上がると足元がふらついた
「っと、大丈夫?」
『すみません、だいじょうぶです』
「もしかしてお酒あんまり強くない?」
『そんなことないですよー』
「いや、確実に酔ってるよね?送ろうか?」
『いえいえ、げんさんにそんなことさせられませーん、ひとりでかえれまーす!』
と歩き出そうとしたがまたバランスを崩してしまい源さんの腕の中に収まった
『げんさんいいにおーい』
そこから先の記憶はなく目覚めた時には自分のベットの上にいてまるで昨日のことが夢みたいに思えた
スマホに一件通知があった
[勝手に部屋に上がっちゃってごめん
体調はどう?
鍵はポストに入れておきました]
と源さんから連絡がきていて昨日の出来事が夢ではないことととてつもなく迷惑をかけたことがわかった
[大変ご迷惑おかけしました!
本当にごめんなさい!!
昨日はとても楽しかったです。
ありがとうございました!]
[迷惑だとは思ってないよ、俺も飲ませすぎたしね。次、いつ空いてる?ご飯でもいこう]
[私でよければ是非!夜なら基本いつでも大丈夫なので源さんの都合のいい日にでも]
そう送り次の食事までの間に少しでも女を磨いておこうと決意をした