桜の舞う季節。桜吹雪は私達を祝うかのように吹き、青空には雲ひとつもない最高の卒業式日和だ。
高校三年間がついに終わった。
周りが卒業プリやら、写真撮影やら、寄り道やらなんやらで盛り上がってる中、私はそそくさと早足で学校を後にし、スマホを片手に目的地まで急いだ。
「もしもし、嶺二さん?」
待ちきれなくて、つい電話を掛けてしまう。電話越しに聞こえる彼の声は優しくて暖かくて甘くて、簡単に感情が膨れ上がる。
「やっほー、サラちゃん。卒業式終わった?」
「うん、終わったよ。今からそっち向かうね」
「あー、大丈夫だよ」
「え、それってどういう意味……」
動揺して思わず立ち止まり、その言葉の意味を聞こうとすると今度は電話越しでは無く、少し離れた位置から「おーい!」と聞き馴染みのある声が聞こえる。
「サラちゃーん!」
「! 嶺二さん!」
今いる位置より、少し離れたところ。そこの駐車場で大きく手を振る嶺二さんがそこに居た。そんな彼を見るなり思わず走り出し、すぐさま彼の元に駆け寄った。
「サラちゃん、卒業おめでとう」
「わ、花束? えー、ありがとう!」
「ふふ、じゃあ早速車に乗って。最初はお昼ご飯でも食べよっか。おめでたい日だから、ぼくん家でデラックス幕の内二人で食べちゃお! もう用意してあるんだ」
「え、いいの?! やったー!」
そして、嶺二さんに促され彼の車の助手席に乗る。
嶺二さんは、私がバイトをしていたお弁当屋さんの店員さん。カッコよくて面白くてノリが良くて、優しい人。気付いたらそんな嶺二さんに惹かれて、恋をしてしまっていた。
最初は、私はまだ高校生だし年齢差もあるからと踏み出せずにいた。でも、嶺二さんといると雰囲気が良くなることが多々あって、嶺二さんに促されるように自分の気持ちを正直に伝えたら、嶺二さんはそんな私を受け止めてくれた。
でも、やっぱり世間というものは引き離せない。嶺二さんは「サラちゃんが高校を卒業して、大人になるまで待つよ。だから、それまではお預け」と言ってくれて、それからずっとこの日を待ってた。
途中、喧嘩をしたり彼を疑ってしまったり、私が子供っぽい故に色んなこともあったりしたけど、それら全て乗り越えてここまで来れた。
そうして私は今日、やっと嶺二さんの彼女になれるのだ。
道中、いつも通り何気ない話をしていれば、あっという間に嶺二さんの家に着いた。
「今日は母ちゃんも姉ちゃんもいないから、二人きりだよ」
そんな嶺二さんの言葉に、一人で意識してドキドキしてしまう。顔も赤くなっせいで嶺二さんにも筒抜けで、そんな私を見て「かわいい」と微笑んでくれた。
嶺二さんが手を差し出し、エスコートしてくれるかのように支えてもらいながら車を降りる。嶺二さんの家には、お母さんとお姉さんも私と仲良くしてくれてるおかげで何回か来たことがあるものの二人きりという状況は始めてだった。
玄関に上がって、先ずはお昼ご飯を食べる為にダイニングへと向かう。
「見て見てサラちゃん! なんとデザートには、サラちゃんの大好きなスフレチーズケーキを買ってきちゃいました〜! しかも、イチゴがたっぷり乗ってるやつ!」
「え〜! 最高! 嶺二さん天才! 神!」
「でしょでしょ☆ これは、ご飯が食べ終わってからのお楽しみっ!」
差し出されたケーキの箱を軽く開かれ、その中を覗くと大好きなケーキが入っていた。私の卒業祝いの為にここまでしてくれたというのが嬉しい。それと同時に、大好きなデザートを食べられるという嬉しさもあるけど。
「それじゃあ、サラちゃんの卒業祝いパーティー、開始〜!」
「いぇーい! どんどんぱふぱふ!」
◇
デラックス幕の内は確かに美味しい人気メニューだ。でも、なんだか今日食べたものはいつもより美味しく感じた。きっと、嶺二さんと一緒だからなのだろう、と少しロマンチックなことを考える。
デザートも食べ終わり、食器等を片付けた後はソファでゆっくり隣合って座っていた。
「ねぇサラちゃん」
嶺二さんに呼ばれ、横を向くと嶺二さんの顔が近付いてきてついビックリしてしまう。そんな私の反応を見てクスッと笑う彼に、ついつい頬を膨らませてしまう。
「あはは、やっぱり緊張してる?」
「まぁ……約束、の日だし……」
「覚えててくれたんだ。ぼくもずっとこの日を待ってたよ」
約束の日。
嶺二さんが、卒業するまで待つよと言ってくれた日から、ずっと待ち望んでいた今日という卒業式。それは、私にとっては子供を卒業する日でもあった。
「あれから、気持ちが変わったりしてない?」
「! してない! そういう嶺二さんこそどうなの」
「変わるわけないでしょ。そんなにぼく、軽く見える?」
「うん」
「わ〜、素直。正直すぎてれいちゃん泣いちゃうかも。こんなにもサラちゃんに一途なのに……」
――嶺二さんのことが、好き、です。
あの時、それを言葉にした時私はもうバイトを辞める気でいた。だって、ただの小娘の私にこんな大人な嶺二さんが振り向いてくれるとは思わなかったから。
そして、今こんな未来を歩んでいるなんて、一ミリも想像していなかった。嶺二さんが隣にいる日常が当たり前になろうとしているなんて。
「ねぇ、告白はぼくからさせてよ。男としてカッコよく決めさせて?」
「っ、ちょっと心の準備が……」
「だーめ。いつまでぼくのこと待たせたと思ってるの。ぼくはいち早く君をぼくのものにしたいの。分かってくれる?」
そんな真っ直ぐな眼差しでお願いされたら、断れる訳ない。高鳴る心臓を抑え込もうとしてもそんなのは到底ムリだ。
首を縦に振って返事をすれば、嶺二さんは満足そうに笑って、私の片手を優しく握った。
「世界で一番、誰よりも、サラちゃんのことが大好きだよ。だから、ぼくの彼女になって欲しい。誰よりも近くで、サラちゃんを守らせて欲しい」
――ぼくと、付き合って?
手の甲に優しく口付けをする姿は、まさに王子様みたいだった。私よりも何千倍もロマンチストな彼の告白は思っていたよりも破壊力があった。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします……!」
「ふふ、照れちゃってるサラちゃんも可愛い。誰よりも幸せにするからね」
こういう時、なんて返せば良いか分からなくてぎこちない返事で返してしまう。それでも嶺二さんはそれを受け止めて、幸せそうな表情を浮かべた。私はただ顔を赤らめるだけで精一杯だというのに。
「ねぇ、サラちゃん。もうぼくの彼女になったんだから、さん付けはやめて『嶺二』って呼んでくれる?」
「エッ……?!」
「おねが〜い! 嶺二さん呼びだと距離があるみたいでなんだか寂しいよぉ。もう誰よりも近い存在なんだよ? ぼく達」
年下の、女である私よりもあざとくて甘え上手で、普段年上の頼りになるカッコいい人という印象があるからギャップでやられそうになる。そういえば確かに彼は末っ子だ。
「じゃあどっちか選んで? 嶺二って呼ぶか、ぼくと今ちゅーしちゃうか」
「まっ、なんでその二つ……?!」
「良いじゃん良いじゃん! ほらほら、呼ぶなら早く呼ばないとどんどん近付いちゃうぞ〜?」