どきどき


 一緒に暮らすようになって、ほんの少しの時間が経った。
 今までは仕事の合間を練って会いに行ったり、でもやっぱり忙しさもありと中々会える時間が限られていたのが、今やそんな隔たりもなくなって家に帰れば愛しい彼女に会えるのが最高に幸せだった。

 ぼくのワガママで、一緒に寝よう? と言えば、サラちゃんはそんなぼくのオネダリなんて拒否できなくて毎晩一緒に寝る。そのせいで、彼女の部屋に置いてあるベッドはもはや何も機能しなくなってしまった。

 でも、ほんの少しだけ、彼女の様子が気になる。
 寝る前に、微かに見せる暗い表情と、下に向ける目線。ただそれだけだが、彼女は我慢しやすくて溜め込みがちだから、無意識のうちにぼくが何か嫌な思いさせてしまったのだとしたら、罪悪感で胸が押し潰されそうになる。
 だからベッドに寝転ぶ前、サラちゃんに一つだけ質問した。

「サラちゃん、不満とか、気になることとかってない? 小さなことでもいいから、なんでも言ってね」

 サラちゃんを優しく抱き寄せる。寒い時期だから、彼女の着ているパジャマはふわふわもこもこの暖かい素材で、抱き寄せるだけでもぼくまで暖かくなるような気持ちになる。

「……ホントになんでもいいの? ちっちゃいことでも?」
「もちろん。朝ごはんの味付けがちょっと濃いとか、そういうのでもいいよ」

 そう答えると、彼女は悩む素振りを見せた。
 何かしらはあるんだろうな、と思うとちょっぴりドキドキしてくる。それが例え小さなものでも、サラちゃんに嫌な思いをさせるのは嫌だ。彼女にはいつも幸せにいて欲しいから。

「じゃあ、ほんとに、小さなことなんだけど……」

 その言葉の続きがどんなものかが分からなくて、ついついぼくは身構える。でも、それはぼくにとってはとても愛らしくて仕方の無いものだった。

「寝る時、私に背中向けられると……寂しいなって、思って、ます……」

 いつもはあんなにしっかりしてて、むしろ芯が通った素敵な女の子なのに、ぼくの前になるとこんなにも弱気になるのが可愛らしくて堪らなかった。大好きな子なのに変わりは無いけど、恋する女の子そのものって感じがして、ぼくの庇護欲を思いっきり駆り立てられる。

 てっきり、もっとこう、ぼく自身への不安というか、そういうものなのかなと思っていた。確かに小さいことかもしれないけどサラちゃんをこんな表情にさせちゃう時点で充分大きい。
 それでも、ぼくの想像とのギャップの差に思わず吹き出して笑ってしまうと、ちゃんとサラちゃんに睨まれた。

「あはは、ごめんごめん。サラちゃんってそんなに寂しがり屋だったっけ?」
「自分じゃ、そんなつもりはなかったはずだけど……嶺二は、特別だし」

 彼女は、今自分がとんでもないことを言ったという自覚は果たしてあるのだろうか。いや、きっとない。普段恥ずかしがって照れ屋さんなところもあるのに、何気ないところでこうやって当然かのようにサラリとすごいことを言うもんだから、ぼくの心臓がもたないったらありゃしない。

 思わずサラちゃんを思いっきり抱きしめた。
 驚きつつも彼女は、ぼくの背中に手を回して抱きしめ返してくれる。なんだかんだぼくのことが大好きだってこと、ちゃんと伝わってるよ。

「寂しくさせちゃってごめんね。これからは寝る時は背中を向けないし、なんなら遠慮なくサラちゃんの寝顔をじっと見ちゃってもいいよね?」
「えー……そんな可愛い寝顔してないでしょ別に」
「してるよ! んもう、サラちゃんは自分がどれだけ可愛いか分かってないんだから」
「あんたが大袈裟なだけでしょ!」

 抱きしめてることで、彼女の鼓動が直に伝わるし、きっとぼくのも伝わってると思う。
 今日はもうこのまま寝てしまおう。彼女の可愛い可愛いワガママも聞いて、そのまま夢の中でも会えたらきっともっと幸せなんだろうな。





Archives