まだ七月に入りたてだというのにとんでもない気温だ。いや、なんなら六月からずっととんでもなかった気がする。部屋の中に居ても外の日差しを見るだけで嫌気がさすし、冷房なんてつけなければ今頃くたばっている。
暑さと汗をかくのが大嫌いなサラは、少しでも涼しく快適に過ごそうと涼し気な格好をする。扇風機を付けて、髪の毛をまとめて、ソファでくつろいで優雅にアイスを食べる。とはいえ、サラはアイスを食べる速度だけは異様に早いからすぐに手元から無くなるが。
「ただいま〜」
玄関から軽快な声が聞こえる。外は三十度前後だというのに、疲れを感じさせないような明るい声とそのテンションには尊敬の念を抱く。だが、当の本人――寿嶺二が車の鍵を置くあたり、涼しい車内で家まで辿り着いたのだろう。それならば対して汗をかかないのも頷ける。
「おかえり〜」
ソファに座りながらサラは顔だけ嶺二の方に向ける。動く気は更々ないらしい(サラだけに)。
「いやぁ〜、今日も暑っついね。ねえ聞いてよ、ここ最近ずっとミューちゃんがアイスばっか食べててさ……」
「あー、想像出来るかも。あいつ北国出身だもんね」
嶺二が話しながらソファのあるダイニングに足を運ぶ。テレビをつける訳でもなく、アイスを食べ終えたサラは適当にスマホでソシャゲをポチポチする。
「……ねぇ、サラちゃん」
「なんですか」
「あのぉ、あまりにも無防備すぎじゃない?」
ソファの背もたれに腕を乗せて、後ろから覗き込むようにして嶺二はサラの方を見た。肝心のサラの今の格好は半袖短パン。動きやすさと涼しさ重視の部屋着は露出も必然といつもより多くなり、髪の毛がまとめられたことによってうなじも出ている。めくれたシャツの下からお腹が出ているが、サラはそれを気にせずそのままにしている。
「んー、嶺二しかいないから良くね」
「良くないよ。だってぼくも男の子なんだよ? こんな可愛い彼女の無防備な姿見たら、我慢できなくなっちゃうよ」
「良いんじゃない、我慢しなくて」
サラは、そんなセリフを恥ずかしがる素振りもなく簡単に口にする。それが計算なのか、はたまたただ何も考えていないだけなのか、まあ答えはきっと後者であろうとも嶺二を煽るのには充分過ぎた。
「そう? サラちゃんがそう言うなら、いっか」
嶺二がサラの隣に腰掛けたと思えば、手がいやらしく太ももの上に乗り優しく撫でる。その手つきは、ただの馴れ合いにしてはあまりにも妖艶すぎる。現に、今その男の顔がそういう表情をしていたからだ。
「……っ、なに、今からすんの?」
「ふふ、ぼくは今からでも良いよ♡ まだ日も沈んでないから時間もたっぷりあるしね」
「ふん、すけべ」
「サラちゃんだって、期待してるくせに」
その空気に抗えず、サラはスマホを置いて嶺二の方へと顔を向けた。言葉にせずともそれが合図だというかのように、そのまま優しくキスをする。
サラは一回だけのつもりだったが嶺二はそうでもないらしく、もう一回、更にもう一回と角度を変えて唇を重ねる。腰に手を回して距離も縮めて、密着して溶けさせるかのごとく。
「……暑い」
「今からもっと暑くなっちゃおっか」
「さいあく」
口ではそう言うサラだけど全然嫌そうではなく、首筋にキスをする嶺二を突き放さず、寧ろ彼の首の後ろに手を回して受け入れた。それが堪らなく嬉しくて愛おしくて、嶺二が調子に乗る。
「もしかして、ぼくを誘うためにこんな格好してたの?」
「なわけないでしょ、暑いからだもん」
「ふふ、知ってる。夏っていいね」
「いや、一生冬でいい」
「えぇ〜? ……まあ、冬だったらサラちゃんとずっとくっつけるから、いっか♡」
「ばーか」
「ドイヒー!」