「夢野さんは作家さんなの?」
「ええ。小生は世界中の子供たちに夢を届ける絵本を書いています」
「すっごーい!!夢野さんが作る絵本はきっとキラキラしてて素敵な作品だよね!」
「勿論嘘ですよ」
「えーー!!これも嘘なのかー!!」


 陽の当たる縁側にだらりと寝転がる彼女はまるで猫のようだ。小生の嘘1つ1つに大きな反応をくれる彼女は小さな子供のようで、どことなく乱数に似ている気がする。何かあるたびぴょんぴょん跳ねる姿、高い笑い声、時々小生の周りをくるくる回ってそれはそれは鬱陶しい。無駄にキラキラしているのが更に鬱陶しい。どうして彼女みたいな人物と小生が仲良くしているのか、その答えは何度考えても出てこない。
 キラキラしている彼女と出会ったきっかけはよく覚えていない。気づけば今のように何かあれば彼女が小生の家に転がり込んではわぁわぁ騒いで帰るという生活を繰り返している。たまに帝統と出会すとしょっちゅう2人でくだらない喧嘩を始める、そんな風に彼女はごく自然に小生の生活の一部と馴染むようになった。彼女が普段何をしているのか、どこに住んでどんな仕事をしているのか、どんな人物なのか。その答えは何度考えても出てこない。知っているのは名前だけ。掴めないな、乱数のように。

 彼女の事は何もわからないけれど、彼女が来てから退屈な時間が減ったような気がする。いや、わからないからこそ面白く、もっと彼女を観察していたい気持ちが強くなり退屈だと思うことが無くなったのだろう。彼女は面白い人だ、何もかもが。


「夢野さん?何考えてるの?」


 小生の膝の上に頭を乗せこちらを見上げている彼女と目があった。何を考えている?そんなの決まっている、何も掴めない面白い貴女のことを考えている。彼女を覗き込めば、小動物のような瞳と目があった。からかいたくなる気持ちが湧き出てまた口から嘘が吐き出た。


「小生は貴女のことを愛していると思っていました」


 吐き出た嘘、こんなデタラメな言葉を信じているのか彼女は目を丸くしてこちらを見ている。嘘だと伝えればまたやいやい騒ぐのだろうか、それともまた違った反応が見れるのだろうか。どんな反応が返ってくるのか想像したら胸が弾む。


「………なんて、勿論」


 嘘ですよ。そう伝える前に唇は彼女の唇と重ね合わさって言葉は彼女の口の中へと消えていった。舌が絡み水滴の音が耳に響く、ぷはっと息を吐き出せば唇は離れ、彼女が起き上がる。
 にっこり笑う彼女は楽しそうに「嘘じゃないでしょ?」と口にした。


「私は幻太郎のこと愛してる、幻太郎も私のこと愛してる。嘘じゃない、本物の愛を私たちはお互いに感じてるよね」


 自信満々にそう言い切る彼女の瞳は強い。小生の愛を本物だと信じ疑うことすらしない彼女。こんなにも沢山嘘を伝えてきたのに、それでも尚小生の言葉を、愛を信じる彼女に自然と笑みがこぼれる。ああ、貴女は全く………。


「面白い奴だ」


 いつだっただろうか。俺がこの世はつまらないと口にした時、彼女はそれならつまらないもの全てを捨ててしまえば楽しい世界になるのではないかと口にした。それを聞いた時は何を言っているんだろう、馬鹿な女がいるもんだと思っていた。

 しかし彼女と一緒に過ごすようになり、彼女に興味を持つようになり、私が興味を抱いたとある男によく似ていると気づいた時、彼女を見ていて思ったんだ。
 彼女の言う通り、このつまらない世界の濁った汚い物を全て捨てればこの世界はキラキラと輝く綺麗な物で溢れた楽しい世界に変わり、その世界で彼女と共に過ごしたならば俺の今世はきっと素敵なものになると。

 今再度思う。貴女がいれば俺の人生はとても素晴らしいものになると、俺の人生を名字に捧げたいと。このつまらない世界を名字と一緒にキラキラした楽しい世界にし、2人でいつまでも仲良く暮らしていきたいと。

 ………なんて。


「………嘘だったらいいんですけどね」
「んー?何が?」
「いえ、何も」


 柄にもなく夢見がちな乙女な思考になった自分を恥じる。