平和に行きましょう。
そのご
同僚が一人亡くなった。
喪服に身を包み、葬列に加わりながらぼんやりと、遠目に写真を眺める。数えるのも億劫になりそうな数の棺桶が並ぶが、実のところ“中身がある”棺桶など殆どない。失踪したとされる者達は大量の血痕と、ほんの僅かな肉片ばかりを遺してどこかへと消えている。捩じ切られたそれらを見れば、生死など問うまでもない。両手に余る程度の生存者は当時の状況を知っているだろうが、その半数すらあまりの凄惨さに正気を失い今も狂気と悪夢に苛まれているらしい。まともな思考を残した生存者達は、正気を失うことも出来ずに沈黙することで現状を保っている有様だ。
「(…やっぱり、彼らは来てないか)」
広大な葬儀場を見回しても、高校の生徒らに紛れているだけかもしれないが、数少ない生存者の生徒らはいなかった。療養中の子らはともかく、他の生徒らはトラウマというより周囲の視線を気にして来られなかったのかもしれない。
鳥楽が独りごちて息をついていると、不意に入口付近がざわついた。連鎖するように誰もが振り向き、“彼女”だと認識された瞬間「うそ」「来たの…?」などという言葉が嘯かれる。
子供の正装というべき制服ではなく、歴とした喪服に身を包んだ兎山沙良は、一人の男が寄り添いながら、うそでも幻でもなくそこにいた。
周囲の視線に一瞬居心地の悪さを感じたように固まるが、男に伴われ、ゆっくりと歩み始める。
「……」
彼女が迷わず行き着いた先には、多々良純一の棺桶があった。とはいえ、その中は本人ではなく右手があるだけだ。
「…ーーー……」
「君は、彼の最期を知っているのか」
「知っています。ですが、誰にもお教えするつもりはありません」
その返答は予想していたものだった。鳥楽を経由して出版社側に話が回るのが嫌なのだろう。が、決してそんな真似をしたくて話を聞きたい訳では無いのだ。ただ知りたく、納得したい。
「君が危惧するのも分かる。これ以上世間に事件について報道されたりするのが苦痛なのも。だが、私は友人の最期をただ知りたいだけだ。…決して言わない、だから、どうか…」
「勘違いされていますが」
鳥楽の懇願を、沙良が遮る。
「私が語れることなんて無いんです」
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