平和に行きましょう。
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カタクリさんがモデルやろうとする話
水中で、あとほんの数センチでミロカロスと口付けを交わすモデル。
深い海のほの暗い背景と煌めく鱗の幻想さが良い対比になり、ミロカロスの躍動感に対して死体のように揺蕩うモデルの髪や、焦点の合わない目に施された青のアイシャドウが不気味であるのに酷く美しい。
美しいポケモンで有名なミロカロスをイメージした化粧品の宣伝広告で、水タイプらしい涼しげな色合いでメイクアップされたそのモデルは中性的な顔と線の細い硬質的な曲線の体付きで、謎めいた性別を更に際立たせていた。
「…………」
目の前でナレーション付きで流れたCMを親の仇のように睨みつけながら、カタクリはニット帽を深く被り直す。
ちょっとしたチャレンジのつもりだった、とは周りへの言い訳だ。トーナメント戦が終わって、自分に課した一大決心にカタがつき、チャンピオンになって道を示されたメルや、新たな目標を見つけたホップとは違い目指す何かをそこで見失ってしまった。そこでダンデが掬いとるように、カタクリに自分の手伝いをしてほしいと言ってくれて、とても楽しかったけれど世話になり過ぎるのも良くないと気付いたのがひと月前。
丁度バトルタワーでダンデよりもレア度の高いトレーナーとして話題になり、その時の正装姿で意外性を博したカタクリにモデル依頼が来ていたので、自立を目指し殻を破るつもりで受けたのが2週間前。
そして化粧品メーカーの広告として載った結果、予想外の相乗効果で化粧品がバカ売れしていると知ったのが3日前。それ以来カタクリのスマホには化粧品メーカーの担当者からのメールがひっきりなしに止まらない。嬉しかったのは最初だけで、今は段々恐怖が上回って新しい仕事依頼の返事を「考えさせてほしい」とだけ送って放置してしまっていた。
更に言うと、ダンデへ声掛けもせず勝手に出た為、彼の反応を知るのが何となく怖くぷち家出をしていた。
「…どーしたもんかなぁ…」
ちょっとした出来心出来心が予想外の方向に転がり、世間の色んな人から注目されている。知らない人にも知ってる人にも知られているのだ。ホップから「CM見たぞ!」と報告された辺りからカタクリのメンタルはズタボロで、最終的に「次会った時覚えてろよ!!!」と謎の捨て台詞を吐いていた覚えがある。
だが、当初の目的を思えば、決して悪いことではない。ダンデの世話になりっぱなしがとても申し訳ないから始めたことで、こうして自分1人で食っていける可能性を自ら見いだせた事実は大きい。
シュートシティをあちこち歩き回りながらも頭の中は「どうするべきか」で埋まっていた。お金自体はあるものの、まだ完全に大人でもないカタクリがホテル住まいをしているとそれもそれで非常に目立つ。
「…めんどくさ。相談するか」
一定のキャパを超えると、とりあえず吹っ切れて人に丸投げする性格のカタクリは、スマホを取り出して連絡先を滑らせた。
「マジですみませんでした」
思いの外硬い表情で待っていたダンデを見た瞬間からカタクリには謝る以外の選択肢が吹き飛んでいた。それなりに長い付き合いで分かる空気は明らかに「お兄ちゃんは怒っているぞ」のそれだ。幼い頃のカタクリが、ホップとメルと共にやらかして大人を大いに困らせたら時々こんな風になっていたのを走馬灯のように思い出した。
「何に対して謝っているのかが分からないな」
「えぇと…しばらく連絡取らずに家出して心配かけたのと、仕事ほったらかしたこと……」
「それから」
「…相談せずにモデル引き受けたことデス…」
「そうだな、驚いたぞ。驚きすぎてCMを見た日は全く道に迷わなかったくらいだ」
「なにそれ凄い快挙」
「帰ってきたら部屋はそのまま、連絡も着かない。お前が誘拐されたのかとおばさんと警察に行こうか相談したくらいなんだぞ。ホップから連絡があったと聞いて何とかなったけどな」
「すみませんでした…」
上がる余地もない頭が更に項垂れる。カタクリが自分探しをしている間に方々にかなり迷惑と心配がかかっていたらしい。
「それで、元はと言えばどうしてモデルを引き受けたんだ?それも内緒にしてまで」
「チャレンジのつもりだった…」
「お前のチャレンジ精神は何でそう毎回規模が大きいんだ…。とにかく、いきなり出ていくようなことはやめてくれ。いいな?」
「ふぁい」
わしわしと頭を撫でられてからゆっくりとダンデの顔を覗く。困った顔は相変わらずだが、怒っているぞオーラは既に霧散していた。
「ところで、そのモデルで次の依頼来ちゃったみたいなんだけど、どうしたもんかなって。お兄ちゃんの仕事の手伝いも楽しいけど、試してみたい気持ちもあって…」
「カタクリが決めることだ…って言いたいのは山々なんだが…メディア系は慎重になった方がいい。事務所に入るのが本当なら1番良いんだけどな…」
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