平和に行きましょう。
までほん
今でこそ仲良く食事や近況報告、家族ぐるみの付き合いができるが、本来恵と夜行の間にはマナリア海溝ほど深い溝がある。なんせ、異母兄弟にしたって母親が本妻と愛人なんて関係だ。
その上歳が離れていたせいで共通の遊びはおろか話題さえもなく、お互いに兄弟という自覚さえ薄かった。そも、夜行とその母親は中国で過ごすことが多かったので物理的な接触そのものが少なかったのもある。
そんな関係だったので、当時の恵は夜行のことを完璧な人間だと思っていた。実際は、大学卒業と同時に出奔をかまして海外で全身に刺青を入れたり傭兵だなんだと危険な行為を楽しんだ挙句、銃で大怪我をして戻ってきた大バカ野郎だった訳だが。
夜行が日本へと戻ってきた時には既に10数年経ち、互いに製造元から独立という名の絶縁を果たした身であった。そんな意気消沈した夜行こと馬鹿野郎の身元保証人は自分しかいおらず、仕方なく見舞いにいくことで再会を果たした。
そこで初めて、兄を血の繋がった他人ではなく馬鹿な真似をした身内として見ることが出来たのだ。
正直に言ってしまえば恵と夜行が血縁者らしい付き合いを始めたのは6年前だ。それまで他人同然だった兄弟仲は、この6年間で随分それらしくなった気がする。
「邪魔してるぞ。金ヅル連れてきたんだから文句ないよな」
「大ありに決まってんだろ馬鹿兄貴がよ」
事務所のソファーに家主よろしく横柄に沈む兄・夜行の姿は以前より少し変わっていた。威圧的なタトゥーや顔の傷は変わらないが、あの野暮ったい厚いメガネを付けていないのだ。普段メガネを付けている人間の素顔が妙に見えることはままあるが、それがこの男に適応されると普段の5割増で怪しい男に見える。どのみち不審者だ。
そして変わったことはもう一点、連れがいる。夜行が恵の探偵事務所を訪れるのはそう珍しくはないが、例の作家以外でここに誰かを連れてくるのは初めてだった。
その連れは、長身痩躯でやや奇抜な髪色をした浅黒い肌の男で……俗っぽく言うととてもチャラい優男に見える。探偵事務所といえど中身は普通の事務所とそう変わらないはずだというのに、辺りをキョロキョロと物珍しそうに眺めていた。
「お兄さん、探偵事務所は初めてか?」
「初めてだぜ!なんていうか、探偵っぽい部屋だな!あ、俺萬里小路論っていうんだ。気軽にマデロンって呼んでくれ」
「そーかそーかよろしくな萬里小路さん。そこのくそ馬鹿兄貴とどういう関係だ」
「友達!」
「」
「適当なサ店じゃ駄目なのか」
「仕事を頼みに来たからには相応の場所ってもんがあるだろ」
「律儀だねぇ。俺は何でもいいが」
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