平和に行きましょう。

長谷部


 長谷部の営む生活は、朝日が登る頃から始まる。与えられた二間の和室は、顕現されてからそこそこの月日が経つ為私物が置かれているが、それでも同時期の者に比べれば、質素には違いない。
 むくり、と起き上がった頃には既に覚醒しきった顔で、すぐさま立ち上がる。テキパキと済まされる支度はものの数分で終わり、見る間に姿見に映る姿は常のものとなった。
 廊下に出ると、外はほんの僅かな気配が散らばるだけで恐ろしく静かだ。かくいう長谷部は内番を任された訳でもなく、厨に向かう訳でもない。出陣も早朝に行われることは少なく、そもそも近侍ですらない。それでもその歩みは義務として動いていた。
 きん、と張り詰めた朝の空気の中、入り組んだ廊下の先には、現在閉ざされた帳がある。
 この奥に、「彼女」がいた。
「…へし切長谷部だ」
「どうぞ、長谷部さん」
 少年の声と共に障子が開かれる。先に顔を覗かせたのは前田藤四郎だ。短刀ながらに現在の近侍として1番隊を率い、そして遡行軍との戦いを最前線で挑む本丸きっての最古参だが、流石にその顔色もやや疲れが見えた。
「前田、主様は」
「まだ眠っています」
「無理もない。…何か精の付く物をお出しできれば良いのだが」
「霊力切れに効くのでしょうか…」
「分からん」
 昏々と眠り続ける娘の周囲は敷居で囲っており、こんのすけ以外は入れないよう術式まで掛けられている。元々、執務室には近侍しか入れない。廊下と部屋を仕切る障子一枚を超えることを許されない長谷部はそこで歯噛みし、忌まわしさ故に目付きにも険が出た。
「…全隊起用、手入れ、鍛刀、顕現。あまりにも無茶だ。ご自身を壊されてまで手に入れる必要があったのか」
 長谷部の独り言じみたそれに、前田は困った様に苦笑した。
 日本号捜索。かの三名槍が一角を名乗る者の為に守るべき主が倒れたとなってはまるで意味がない。政府から伝達が来たその日から、蜻蛉切や御手杵とならぶ槍が見たい、と駄々を捏ねるように立ち上がった彼女の熱意は到底冷めやまないものだった。そして進軍に次ぐ進軍の末に、とうとう1番隊が持ち帰ったのが──
「前田、やはり主の見間違えということにして、今のうちに折ってしまわないか」
「長谷部さん、それは流石に主様が可哀想です」






















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