「イゾウ隊長! 手を出してください!」
船内を一人で歩く彼を見つけて、後ろから呼び止める。そんな私の突然過ぎる声掛けに対しても、素直に手を出してくれる優しい隊長。どんなに一緒に過ごしたって、好きな人に話しかけるのは緊張する。さっきのセリフも少し上擦ってしまい、それが更なる羞恥心を煽るけれど、誤魔化すように話を続けた。
「上陸した島で見つけたんです! 金平糖!」
そう言って私は差し出された手に小さな包みを置く。これは、少し前に休息目的で上陸した島の露店で売られているのを見付けたもの。金平糖と呼ばれる色とりどりの小さなキャンディは、どうやらワノ国のお菓子らしい。秘かに思いを寄せるワノ国出身の彼に話しかける、いいきっかけになるかもなんて考えて買った。
「金平糖か、懐かしいな」
目を細めてふっと笑うイゾウ隊長はとても綺麗だ。女性と間違われてナンパされる事が多々あるんだと、マルコ隊長から聞いた時は思わず笑ってしまった。端正な顔立ちに、白く滑らかな肌。これだけ綺麗だと間違われても無理はないかもしれない。そう考えながら見惚れていたら「開けても?」と、少し遠慮がちに言われてしまい慌てて返事をする。
「は、はい! ぜひ!」
丁寧に包みを開けていく彼の「お嬢は食べたか?」という質問に対して、私は首を横に振った。
「いえ、私は食べてないです」
「食べた事は?」
「ないですね……」
「そうか」
彼は「だったらこれが初めてになるな」と、手のひらにある金平糖を一粒摘み、すっと私の唇の前に持ってくる。一瞬、今、目の前で起きている事象と、自分の思考のスピードが追いつかないで反応が遅れた。もしかしたら、かなり間抜けな顔になっていたかもしれない。
「えっ?」
「お嬢もせっかくだから食べてみてくれ」
「で、でもそれは隊長にって買ったやつですから」
「ほら、早く口を開けろ」
「いやいやいや! 死んじゃいますよ!」
「毒でも入ってるのか?」
「そういう意味じゃないです!」
ちょっとでも話すきっかけになればくらいの軽い気持ちで買ったお土産が、思わぬ副産物を生み出したせいで頭の中はパニック状態。正直すごく食べたい。金平糖を初めて見た時、星みたいにきらきらしてて綺麗だなって思ったし、こんな素敵なキャンディがあるなんてと半ば興奮気味で買った。島を出てから自分の物も買えばよかったと後悔したけれど、それよりイゾウ隊長と話せる楽しみの方が大きくて食べたい欲はさほどなかったのに。
「今食べ損ねたら次いつ食べれるわからないぞ」
「そ、それはそうですけど……」
「いいのか?」
「よくないですけどぉ……」
金平糖はものすごく小さい。大きいキャンディではない。口を開けて食べさせてもらうのは恥ずかしい。間違って指を噛んでしまったらどうしよう。上手く食べることか出来ないかも。食べる時の顔が変になってしまうかも。というか、上手く食べるのなんて不可能だ。どう考えても恥ずかしいことになる。
「……ははっ」
「え!」
「いや、悪い。少しからかい過ぎた」
悪いと言いながらも全然悪びれた様子もなく、肩を揺らしながら笑った。
「手を出して」
そう言われて私が差し出した手に、小さな金平糖が数粒程ころんと置かれる。
「ありがとう、いつかお礼する」
「お礼だなんて! 私が勝手に買ってきたしそんなお気になさらず!」
「じゃあ、おれも勝手にお礼するから気にするな」
自分が想像してたより嬉しそうに金平糖を摘む隊長をみて、買ってよかったと安堵。キャンディなんて、ちょっと子供っぽいかなとも思ったけれどお気に召したようだ。反応が嬉しくてにやけていたら、ふと真剣な顔で私を見つめてくることに気付いてしまい、どきりと心臓が跳ね上がる。
「す、すみません、にやにやして」
「そうじゃない」
その後の言葉を言いよどみ金平糖をじーっと見つめた後、彼は少し言いにくそうにしながら「お嬢」と口を開いた。
「他の誰かにもあげたのか?」
「……? 金平糖をですか?」
「金平糖を」
「イゾウ隊長だけですけど……まずかったですかね?」
「いや、いい。大丈夫だ」
彼は「そうか。おれだけか」と、心做しか先程より嬉しそうに噛み締めながらそう呟いた。