斯くてひみつは暴かれる



「隊長ー! 手だしてください!」

ハイペースで飲まされたお酒のせいで、へべれけになってる彼女は回らない呂律で言った。いつもの如く何がきっかけだったかよくわからないまま、甲板で始まった宴という名の馬鹿騒ぎ。黄昏時だった空はすっかり暗く、大きく丸い月が煌々と船を照らしている。酔っ払ったサッチとジョズはどうやら腕相撲勝負をやるらしい。どっちが勝つか皆で賭け始めて、たいそうな賑わいだ。そんな様子を横目で見ながら、なんか前にも聞いた事があるセリフだなと思いつつ言われた通りに手を出す。

「わぁ、男の人の手みたい」
「みたいじゃない。だいぶ酔ってるな、どれだけ飲んだ?」

言われた通りに差し出した手をべたべた触りながら「そんなに飲んでないですよー?」と彼女は言うが、そんなはずは無い。ジョッキに入ったお酒を飲み干した次の瞬間には、隣にいたビスタにお酒を注がれていたのを、おれはちゃんと見ていたから。そろそろ止めようかと思ってた矢先に、ふらふら覚束無い足取りでこちらに近付いてきたので止めずに済んだが転けないかヒヤヒヤした。
 
「隊長の手温かい。ぽかぽかしてる」
「……はぁ、飲むのはいいがほどほどにしろ」
「そんな飲んでないですって。吐いてないし! まだまだいけますよ!」
「吐くまで飲むつもりか?」

呆れていたら「任せてください! ぶっ倒れたりはしないので!」と力強く言うが、そういう問題ではない。

「わー! 指ながーい! いいなー!」

何が楽しいのか自分にはさっぱりわからないが、上機嫌で隣に座り、相も変わらず手を触り続ける。今までにないくらい近い距離にいる彼女は、知らない。本人はこれで隠してるつもりかもしれないが実は周りも、当の本人のおれでさえも気付いている。いつからという明確な時期はわからないが、どうやら好いてくれているらしい。そんな彼女が普段行う、慎ましやかで必死なアピールがだんだん可愛く思えてきて、気付いたら目で追うようになっていたのだから、我ながらなんとも単純だなと呆れてしまう。

「みてみて! 隊長の手! すごい大きい! 私と大きさが全然違いますね!」

お酒のせいで紅をさしたみたいに赤くなってる顔で、それはそれは楽しそうにふにゃふにゃ笑う彼女がいつも以上に可愛く見える自分も、多分ほどほどに酔っている。嬉しそうに横を陣取ってはいるけれど、どうせ明日には全部忘れているのだろう。こうやってお互いの体温がわかるくらい近くにいたことも。好いた男の手と自分の手を合わせたことも。普段は挨拶の言葉を交わすだけで顔を真っ赤にしながら必死なくせに。何故だか悔しい。楽しそうに、幸せそうに、笑顔でおれに触れてる今この瞬間を、こちらだけが覚えてるなんて。
未だ手を合わせている一回り小さな彼女の手をぎゅっと握り締めれば、びくっと身体を震わせて顔を上げた。酔いのせいなのか、他に要因があるのか、少し潤む目。そんな彼女の目から一瞬も視線を逸さず、ゆっくり焦らすように指と指を絡めて、少しだけ力を込める。ただでさえ赤い顔が、段々と真っ赤に染まっていく。これで彼女は、明日になってから自分の行動を覚えていないなんてことはない。きっと朝一番、慌てて謝りに来るに違いない。顔を赤くしたり青くしたりする百面相が目に浮かぶ。その時はなんて言って揶揄ってやろうか。
 
「なんだ、手を繋ぎたかったんじゃないのか?」
「あ、あの」
「今日は積極的だな?」

さらに距離を詰めて耳元で囁けば、キャパオーバー起こした彼女は固まってしまった。





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