二十歳は一生もの。なんてことをCMか何かで聞いたことがあるが、こうやって振袖を着て歩いているだけで街行く人がおめでとうと声をかけてくれたり近所のおばちゃんなんかは目を潤ませて喜んでくれるもんだから確かにこれは一生ものだなと妙に納得してしまう。


カラリカラリと草履を鳴らしちょこちょこと歩く。いつもは大股でずんずん歩いている私とは思えない歩き方で何だかじれったい。普段の私ならあっという間に着く公民館も今日は遥か遠くに感じて思わずため息が出る。よく考えたら昔の人はこんなのを着て歩いていたなんてすごい。




「お綺麗ですね」

「あぁ?……っ!」

「なんだ、口は悪いままか」

「………浩史」



声をかけてきた人物を見た私は少し眉を動かした。よぉ、と手を上げて話しかけたのは幼なじみの浩史だ。いつもと違ってスーツ姿にメガネをかけていてせっかくの成人式なのにスーツか、と少しがっかりだ。もし羽織り袴を着ていたらバカにでもしてやろうと思ったのに期待はずれで何も面白くない。




「スーツとかつまんなっ」「まぁ家にこれしかないからね」

「借りれば良かったのに」

「そっちは綺麗じゃん」

「………」

「着物が」

「言うと思ったよ!」




へっ、と可愛げもなく笑って私は浩史から視線をそらした。こっちは歩くのに必死で浩史のくだらないちょっかいに構ってる暇(余裕ともいう)はない。




「振袖着ると少しは女らしいな」

「言っときますけどいつも女らしいから」

「あーそう」

「っ、何よその返事…」

「だって毎朝大股もしくは猛ダッシュで駅まで行ってる人がよく言うなーって思って。ねぇなまえさん?」

「っ!」

「いつもバイクから見てた」

「バイクっ?」

「ご苦労なこったなーって」

「なにそれうざっ!」




いやもう本当に何。まさか見られてるとは思ってもなかったし浩史がバイクに乗ってるなんてことも知らなかった。ちくしょうやっぱ私もバイク買う。しかしこんな話をしていても相変わらずちょこちょことしか進めない私に、隣の浩史も合わせるようにもたもたと歩いていて何だかイラッとした。なんて言うかさ。もういいから先に行け。



「てか何で浩史ももたもた歩くわけ?」

「何でって楽しいじゃん」

「………」

「なまえをからかうのが」

「言うと思ったよっ!」



ケラケラっと可笑しそうに笑う浩史にブスたれた顔で睨めばどこか満足そうに微笑んでから、でも実際は、と何かを付け足すように呟いて浩史は私を見た。




「たまにはこうやって歩くのもいいなって」

「え?」

「昔みたいでなんか良いじゃん」

「……まぁ、確かに」

「あとそれにさ、」

「…な、何?」

「お前のこと色々心配だからな」

「、!」




そう言って目を細めて笑った浩史の顔は昔となんも変わっちゃいない。だけどそれと同じように、私の胸に響くこの鼓動も昔となんも変わっちゃいないのよ。





君を好きな気持ちも
(一生ものだと思うんだ)

20120111
1997