「ねぇねぇ浩史」

「んー何?」

「月が綺麗だよ?」

「あー、本当だ」




ベランダからそう声をかければリビングのソファーからチラリと空を見た浩史がそう言ってすぐ台本に視線を向けた。あーあ何だよつまんない。せっかくの満月なんだから少しは構って欲しい。友達から聞いた今日の満月はブルームーンと言うらしい。1ヶ月に2回ある満月の日をそう呼んでそれを見た人は幸せになるんだとか。教えてくれた友達は彼と見るってのを聞いてなんだか羨ましい。




「綺麗だなー」




浩史に聞こえるような声で一緒に見ようよー的なあからさまな態度を取ってみてもこっそり覗いたリビングには台本を読む浩史しか見えない。ちぇーつまんない。ぐでっとベランダに寄っかかって空を見上げれば月明かりがやけに眩しい。何がブルームーンだー。




「へぇ、本当に綺麗だ」

「っ!」

「今日は何だっけ?ブルームーンだっけ?」

「え、」




突然の声にびっくりして、知ってんだ、と思わず驚けば失礼だなーとサンダルを履いた浩史がベランダに出て来てため息を吐いた。




「俺だってそんぐらい知ってる」

「へぇー以外」

「そりゃどーも」




本当は着てくれて嬉しいのにちょっと意地悪言ったりして。明るいなーと隣で目を細める浩史の横顔を見れば嬉しい気持ちがなぜたか少し悲しくなって目を伏せた。浩史はあの噂のこと知らなそうだよな。




「ん?どうした見ないの?」

「えっ、あぁ、見るよ」



突然私に声をかけた浩史に慌てて頷いて前を向けば浩史がんーと声を出した。




「一緒に見なきゃダメなんだろ?」

「え?」

「あの月、一緒に見ないと意味ないじゃん」




ぽかんと口を開けたまま浩史を見れば困ったような笑顔を見せてベランダに頬杖をついた。




「俺はてっきり幸せになるってやつかと思ってた」

「なっ…!」

「一緒に見たら幸せになるんでしょ?」

「え、いや、まぁ…」

「じゃあほらせっかくだから一緒に見ようよ」



ね?、首を傾げた浩史が私に笑いかけた。もしかして私の気持ちは全て読まれていたのだろうか?眩しいぐらいの明るい月に浩史と私の影が少しだけ伸びる。せーので見る?とたずねてきた浩史にうんと頷いて、どちらともなく手を繋いだらさっきよりも月がやけに輝いて見えた。







ブルームーン
(せーの)

20120901
1997