時刻はもう日付が変わる寸前。そんな時間に携帯のバイブがなった。ディスプレイを見れば「小野くん」という文字。思わずため息を付いて電話に出る。





「なんですか」

『ふられた』

「そうかい残念、それじゃあ」

『ちょいちょいちょい!!』





電話を切ろうとすれば無駄に良い声で私を引き止めて『それだけ?』と虚しそうな声で何度も私の名前を呼ぶ。なんだこいつ。





「そうかい残念、それじゃあおやすみ小野くん」

『って違うでしょ!別におやすみの挨拶が欲しくて引き止めたんじゃないからね!』






だからなんだこいつ。夜遅くにふられたとか言ってきたくせにテンションが高い。そして鋭い突っ込みがなんかうざい。



「案外早かったね」

『ねぇ、何よそれ。なんで傷口をえぐるようなことを…』



うぅと電話越しに落ち込んでいる小野くんにやり過ぎたなと少し反省して大人しく愚痴を聞くことにしてやる。



『俺と会える時間がないからだってさ』



低い、小野くん声低い。さっきとテンションの差が激しい。一応元気になって欲しいから何か言ってやらなきゃとは思うのに



「そっかー今小野くんピークなんだから仕方ないよね」



口から出るのは所詮こんなもん。元気にさせたいのか凹ませたいのか自分でも分からない。



『おいィィ!…でも俺のせいだし仕方ないよね』



と私の言葉に軽く突っ込むと案外すんなりと状況を受け入れているようで少し安心する。もうダメだ!とか言って雲隠れでもされたら困るしね。



「でもさ、私達の仕事は不規則なのに小野くんは彼女のために頑張ったよ」

『そうかな』



とりあえず労いの言葉をかけてやれば嬉しそうな声で電話越しに笑っている。



「やっぱ俺は素直じゃなくてドSなんだけど、でも優しい子がいいな」

「………」

『やっぱ俺は素直じゃなくてドSなんだけど、でも優しい子がいいな』

「………」



早い話がツンデレだろとかよく間違えずに2度も言えたなとか突っ込みたいことは山ほどあるけど非常に面倒くさい。



『え、ノーリアクション!?』


だか無言を許さない小野くんは私に突っ込みをせがむ。なんで2回言うの?仕方なくと突っ込めばそれ!と喜ぶ。どっちにしろ面倒くさいよ小野くん。



『だって大事なことだから』

「あっそ、じゃ頑張って探しなよ」


それじゃと電話を切ろうすればまた良い声で私を引き止める。本当に良い声の無駄使いだと思う。その声で口説けばいいのに。



『なまえ今の聞いてた?』

「聞いてたよ、だから応援したんじゃん」

『もう見つけてるもん』

「もんじゃないし。そんな細かい理想に合う人いるわけないよ、バカだな小野くん」



ここまで小野くんがバカだとは思わなかった。神谷さんいつも大変だったね、というかあれかドSツンデレって神谷さんか。小野くんは新しい道を開拓したのか。頑張れ、そう言ってやろうとした瞬間










『俺はなまえがいい』

「はっ?!」










突然すぎる告白に私の心臓は飛び跳ねた。なんだこれ、なんだこいつ。呆れて物も言えないじゃん。今こそ使えよピーク声優。






Now!
(ここで使えよ、良い声を)


そう思うのは照れ隠し

20100810
1997