「あ、俺良いこと思い付いた」 「小野くんの良いことはろくなことないから言わなくていいよ」 「そんなひどいなー今回は本当に良いことだから大丈夫!」 「いやいいよ聞きたくない」 「あのね実はねー!」 良いこと思いついたよ 「ってことでさ、ビデオOK?」 「おーけー」 「あれは持った?」 「あれってあれ?」 「うん」 「えー私が持つのー?!」 「シー!声が大きいよ」 そう言って人差し指を口の前に当てた小野くんが私に困り顔を見せた。思わず吐いてしまったため息をまた吸い込んで私は例のあれを手に持ってカメラを構えた。 「じゃあさっそく寝起きどっきりいってみよー!」 「…こんな狭い家でよくやるよね」 「ちょっ!ここ俺ん家なんだけどっ?」 「だから言ってんだよ」 ひどいなーとブツブツ言ってる小野くんに、カメラ回ってるから、とさっさと背中を押して今までひそひそと準備をしていた脱衣場から静かにリビングへと向かう。わざわざ計画までした今回の寝起きどっきりは小野くんの家で飲んで酔わせて寝かせるという実に質の悪い悪質なイタズラである。男1人が住むのに丁度良い部屋で2人分の寝起きどっきり。これはむちゃな話だ。 「誰から行く?」 「誰ってやっぱり安元くんじゃない?」 「確かに悠一は寝起き悪そうだしね」 「静かに驚いてくれそう」 「じゃあ安元さんから!」 残念なことに先に帰ってしまった神谷さんと杉田くんはなしにこのシグマな2人に寝起きどっきりを仕掛けることにした。本当は小野くんとしては神谷さんに仕掛けたかったのだろうが仕方ない。床に座りソファーにもたれながら眠る安元くんを見ながら、で、何するの?とたずねれば小野くんはおもむろに安元くんの隣に腰掛けると私を見た。 「そっちに座って」 「え、私もやるの?」 「もちろん」 「私カメラ係じゃないのっ?」 「カメラはそこの机で良いから」 「えぇー…」 嫌だなぁと思いながらも安元くんの隣に座れば無言になった小野くんがジェスチャーで私に合図を送る。んん…どうやら肩に寄りかかれとのことだ。ファンデーションなんぞ付かないだろうかと心配しながらそっと肩に寄りかかってみたが安元くんの肩が案外高くて辛い。隣の小野くんを見ればかなりベタベタと楽しそうにくっ付いていていささかいかがわしく見える。 「(これ起きるのいつだろ…)」 両隣から圧力がかかるだけの安元くんはなかなか起きる気配がない。寝起きどっきりとは果たしてこんな感じだっただろうか。微かな疑問を抱いていれば安元くんが少し声を出した。あ、起きるかも。そう感じていればそれを察した小野くんがすかさず安元くんの膝に頭を乗せた。うわ、ありゃ辛い。 「ん……っ!」 ゆっくりと目を開けた安元くんがびくりと肩を揺らしたせいでもたれかかってていたソファーが後ろに少し動いた。机に置いてあったカメラをすかさず手に取って横からカメラをまわしていれば隣の私に気付いた安元くんがパッとこちらを見た。 「………何やってんの?」 「寝起きどっきり」 「………」 「あてっ」 バシッと軽く頭に降ってきたチョップに小さく声を漏らした。相変わらず安元くんの膝の上に頭を乗せたままの小野くんは例のあれこと寝起きどっきりと書かれた手作りパネルを手にクスクスと笑っている。 「チョップするなら小野くんにしてよー」 「いや、隣に居たからつい」 「小野くんなんて安元くんのお膝に居るんだよ」 「お膝とか言うな」 「安元さんの膝枕快適だよ」 「うそーじゃあ私も失礼して…」 「おいおいおい」 ガシッと頭を掴まれ止められた私はチッとわざとらしく声を出してカメラを安元くんに向けた。 「事務所通して通して」 「大丈夫、非売品だから」 「何言ってんだ」 「てかねぇ安元さん驚いた?」 「驚いたよ、だってハンサムが俺の膝枕で寝てんだよ?鳥肌たった」 「それはどんな意味でだね安元くん」 「それはまぁ、ご想像にお任せ」 「ほほう」 「てかハンサム、いい加減起きろ」 「あ、バレた」 バレたじゃないからな、と呆れる安元くんが起き上がった小野くんの頭にチョップをかました。ちなみに私は肩に寄りかかったよ、と言おうか迷ったがまたチョップされるのは御免なのでごっくんのその言葉を飲み込んだ。 「で、次は悠一か」 「中村はまだなのか」 「うん、まだだね」 「次は何にするー?」 「関節技でも決めるか」 「いや、バックドロップでしょ」 「それは出来ないなー」 じゃあ馬場チャップはー?とプロレス技でひとしきり盛り上がる安元くんと私を横目に小野くんはんーだのはーだの声を漏らす。 「で、どうするの小野くん?」 「悠一を俺の膝で寝かす」 『っ!』 「2人はゆっくり悠一の頭を俺の膝へ!」 思わず顔を見合わせた安元くんと私は呆れる前にニヤニヤと口元が緩む。あの中村くんが小野くんの膝枕で…! 「それは実に面白い」 「あ、なまえ悪い顔」 「なんて驚くかな中村くん」 床に寝転がってスースーと寝息を立てる中村くんは実に無防備でどっきりの仕掛けがいがある。中村くんの隣に静かに座った小野くんはジェスチャーで私達を呼ぶと中村くんの頭を指差して乗せろ乗せろと自分の膝を軽く叩く。 「どっちがいく?」 「というかこれ無茶ないか?」 「あるね」 私達はひそひそと小声で話し合って中村くんと小野くんの側にかがむ。たぶん勢い良く乗せるのは無理だからさぁ小野くんと私が小野くんの耳元で安元くんと考えた作戦を話せばグッと親指を上げて小野くんは爽やかに笑った。 「中村くん、中村くん」 「んー…?」 「中村くん、頭痛くなっちゃうから枕」 「うん…」 「頭上げて」 「ん、」 私がそう言えば大人しく頭を上げた中村くんに、行けっ!と小野くんの体を押した。 「どーも…」 「いえいえ」 「………」 カメラを構える安元くんが肩を震わせながら必死に笑い声をこらえている。なるほどこれはなかなかにシュールだ。快適そうに眠る中村くんとニヤニヤと私を見る小野くん。なんか怖いな。だんだんと込み上げてくる笑いを抑えながら中村くんが動くのを静かにニヤニヤと待つ。 「そろそろ起きそうだなこいつ」 「じゃあ小野くんの顔も見飽きたし私も中村くんの寝顔見よー」 「ちょ!さり気なくひどいこと言わないで!」 「小野くん声大きいー」 「あ、ごめん。って待て待て」 中村くんを膝に乗せたまま小野くんが騒ぐもんだから快適そうに寝むっていた中村くんの顔が少し歪んだ。あ、これは本当に起きるな。 「何、もう朝なの…?」 ぼそぼそと声を出した中村くんが少しだけ頭を上げてこちらを見ればカメラを持つ安元くんと私を見て寝起きの目を何度かまばたきさせた。 「何、やってんの?」 「何、っていうかさ」 「中村こそ何、やってんのみたいな…」 「は…?」 小野くんの膝枕より先にこちらに気付いてしまった中村くんにさり気なく指を差せば自分の頭に当たる感触に一瞬眉をひそめてバッと体を起こした。 「なっ…!」 「おはよう、悠一」 「っ!!」 寝起きどっきりと書かれた紙をちらつかせて満足げにニコニコ笑う小野くんに中村くんの顔が見るからに嫌そうに変わる。 「よく眠れた?」 「………い」 「え?」 「………ちわるい」 「え?何?」 「気持ち悪りぃ!」 「っ!」 ボスンっとさっき渡さなかったクッションが小野くんの顔面に直撃したかと思えば中村くんがギューギューとそのクッションを押し付けた。 「ふむー!」 「小野先輩気持ち悪いです本当に」 「悠一ギブギブぅ!」 「なんか夢壊れましたぁ」 「ド、ドリームズカムトゥルー…!」 「せめて女のなまえだろうがァ!」 「あーそっかー私かー」 私女の子だったねーと隣の安元くんに呟けば呆れたように私にカメラを向けて、この子バカです、とカメラに話す。 「ちょ、事務所通して通して」 「大丈夫、これ非売品」 「あはは、なんかデジャヴ」 ごちゃごちゃと言い争ってる2人を適当に撮影しながら安元くんとのほほんと会話をする。壁にかかった時計にふと目をやれば時刻は午前3時30分ととんでもない時間になっていて自然と欠伸がもれた。 「さて、もう終わりにしようかー」 「そうだな、終わろう」 「中村くん小野くんこっち向いてー」 「何だよ!」 「はい。どっきり成功ー」 「、!って勝手にまとめんな!」 同時にこっちを向いた2人に寝起きどっきりパネルを持たせてそう言えばガシッとカメラのレンズを掴んだ中村くんがそう言って私達を怒る。その後ろにチラリと視線をやれば中村くんの背後には満足げな顔の小野くんが見えて、これはとんでもないものを録画してしまったなと笑いが込み上げる眠気もふっとんだ午前3時30分のイタズラのお話。 20120929 |