『安元くん誕生日おめでとーう!』

「あざすっ!」




私達の声に安元くんが照れくさそうに返事をする。本日3月16日は安元くんの誕生日。かなりの人数で安元くん宅におじゃましてお誕生会というわけだ。




「プレゼントもあるよ安元くん!」

「なんかすんませんな」

「気にすんなって安元さん」




誕生会が始まってかなり時間も経ち、また一段と盛り上がりを増す。私と安元くんは何だかんだ仲良しなのでこうして誕生会に参加して一緒にお祝い出来るのはとても嬉しいことだ。




「あ、お酒がなくなってきた」

「うわーマジかよ早え!」

「そんなら私買いに行きまーす」

「おぉ、マジで?」

「はいマジでー」




更に安元くんとは家がご近所なのでこの辺の地形はバッチリだ。コンビニもスーパーもどこにあるかなんてすぐ分かる。お酒が安いお店だってもちろん知っている。みんなの欲しい物をメモに取り、行って来まーすと上着を羽織れば「いや、ちょい待て!」と安元くんに呼び止められた。そういえば主役の安元くんに聞いてなかった。




「あ、安元くんは何が欲しい?」

「てか行くよ」

「ん?何に?」

「買い物。俺も一緒に行くから」

「え、何言ってんの?」

「女の子1人じゃ危ないだろ」

「そんな女の子なんて歳じゃないよ」

「いやでも危ない」

「主役居なくなってどうすんの!悠一でも連れてちょちょいと」




「ね、悠一」と声をかければ心底だるそうに振り向いて「嫌です」の一言。何だとこいつ。私これでも先輩なんだけどな。微妙な敗北感に襲われていれば隣の安元くんがため息を吐いて上着を着始めた。うわー私の面目丸つぶれだ悠一コノヤロウ。




「行こうなまえ」

「え、でもさー」

「俺、なまえと買い出し行って来ますからみんな適当にしてて」

「あら主役なのに悪いねぇ」

「お気を付けて」

「チータラ忘れないでねー」





とみんな酔っ払い始めているのかずいぶんとひどいことを言いながら私達を送り出した。みんな本当に薄情だね。呆気に取られる私をよそに「行こう」と安元くんが呼んだ。マジで来てくれるのか。


アパートから外に出れば意外と肌寒い。3月とは言ってもまだまだ春は遠いみたいだ。小さく白い息を吐いて隣の安元くんを見ればどことなく寒そうでやっぱり申し訳ないことをしていると罪悪感を感じるばかりだ。





「なんか私のせいでごめんね」

「謝る必要ないって。俺が勝手にしたことだからなまえのせいじゃないよ」

「いや、そんなことは…」

「それより寒くない?」

「え、うん、大丈夫」

「そっか、寒かったら言えな?」

「う、うん」





何だかちょっと恥ずかしくなった。見慣れた道を安元くんと歩く。ご近所だけど考えてみればこんなこと今までなかったから少し変な感じ。ほどなくしてスーパーに着けば夜遅いせいか、昼の賑わいはなく私達の他に人はほとんど見当たらない。




「とりあえずチータラとプリンとおにぎりとあとはー…」

「なんかまとまりないな」

「うーん確かにね」




あははっと笑いながらカゴの中に頼まれた物や後で欲しくなるだろう物を入れながら私達はスーパー内をぐるりと歩く。よく来るスーパーも誰かと歩くとこんなにも楽しいのかと妙な再発見だ。











「じゃぁ帰ろっか安元くん」




ビニール袋に品物を詰め込んで安元くんに声をかけた。やっぱり2人だと素早く買い物出来たし何より楽しかった。まぁ本日の主役にこんなことさせるのはちょっと気が引けたけど…。よいしょと買い物袋を持ち上げ歩き始めればガサっと買い物が音を立て突然腕が軽くなった。




「な、何?安元くんっ?」

「俺が持つから貸して」

「いやいや良いよ!安元くん!」

「無理して重いの持つなよ」

「や、安元くんっ!」




突然奪われた買い物袋。あまりのことに私は先を歩き出した安元くんの腕を慌てて掴んだ。私のその行動にびっくりしたのかこっちを向いた安元くんに「あああごめん」と謝って取られた袋を指さした。せっかく均等に分けたのにこれじゃ意味がないよ。




「持つって安元くん」

「大丈夫だよ」

「でも悪いし…」

「じゃぁこれだけ頼むよ」

「え、こんな軽いのっ」

「いいの、こういう時は野郎に任せろって」




私の言葉を遮るようにニコリと笑って歩き出した安元くんにこれまた恥ずかしくなった。少しだけ覗いた袋にはチータラやスルメみたいな軽い物ばかり。安元くんの袋にはたくさんの缶ビールやワインが入っていて何だか申し訳ない。




「ごめんね安元くん」

「何で謝るんだよ?」

「今日誕生日だし…いや、誕生日じゃなくてもだけど…」

「男は力仕事するのが普通だろ?」

「うーん、そうかな?」

「だから気にすんなって」





うわぁなんだこりゃ。やっぱり安元くんは男の人なんだ、と当たり前のことを感じてしまった。別に今までだって男として見てなかったわけじゃないし意識はしていたつもりだ。だけどこう改まると、というより近くにいると少し違った意識が生まれてくる。





「なんか顔赤いぞ?どうした?」

「え、そんなことないよ!」

「大丈夫?寒い?」

「だ、大丈夫だから前向こう!危ないよ!」

「お、おう…?」




明らかに不思議そうな顔をする安元くんにしまったと後悔。なんて私はアホなんだ。いくらなんでも極端すぎるだろう。意識し始めたら急に心臓がうるさくてチラリと盗み見みた横顔にもドキドキしてしまう。なんか安元くんてこんなに身長高かったんだ。見上げなければ見えない顔にまた改めてそう思ってしまう。






「どうかした?」

「あ、いや、あのさ…」

「うん」

「安元くん格好いいね」

「はっ?」

「あ、変な意味じゃなくて!いや、変な意味ってなんだ?」





勝手に口から出た言葉に自分でもものすごく驚いた。だけど更にに驚いたことに安元くんが耳まで赤くなっていて心臓がドクンと飛び跳ねた。こ、これっていったい…!というよりこの気持ち。これってまさか…





恋心が芽生える時
(春はもうすぐそこだ)



(てかあの2人遅くないっすか?)
(あー俺のプリンー)

20110316
(Happy birthday!安元さん)
1997