ジリジリとうるさい目覚ましを手探りで止めて私は枕越しに時計を見た。今の時間は5時ちょうど。ねむい、なんて少しぼやきながら私はゆっくりと布団から体を起こした。





『一緒に見ようか』





そう言ってくれたのは洋貴の方だ。何百年ぶりかの金環日食とやらは私にはよく分からないけどすごいことらしくて、そんなすごいことを一緒に見れるのだから更にすごいと思う。待ち合わせは家からすぐの小さな公園。普段から誰も居ないその公園はかなりの穴場だ。





「忘れ物はー…ないはず…!」






昨日準備した仕事の道具と金環日食用のサングラス。本屋で売ってたそのグラスは子どもの頃見た飛び出すメガネみたいでこんな物で見れるのだからまたまたすごい。




「あ、ごめん!お待たせ」

「あーなまえおはよー」




のろのろと歩いていたせいかすっかり待ち合わせ時間になっていた。ごめんね、おはようともう一度挨拶をして私は洋貴の座るベンチに駆け寄った。いつもと変わらず穏やかな様子だけど内心わくわくしているのが分かるからちょっと可愛い。




「東京は7時30分だよね?」

「うん、でも今も少しだけ欠けてるよ」

「えー本当にっ?」

「太陽、見てみな」

「うん!見る見るっ!」




そう言ってさっそくサングラスをかけて空を見上げれば、真っ黒な世界にポツンと映るオレンジの太陽がほんの少しだけ欠け始めている。




「うわっ、すごい!」

「ね、本当に」

「こんなに綺麗なんだー」




何だか少し幻想的な太陽が少しずつ少しずつ欠けていって本の数十分でリング状になるんだ。




「不思議だね」

「うん、」




ゆっくりと流れる時間に洋貴が静かに頷いた。あーこの時間がもっと続けばいいなーってついつい感じてしまうのは洋貴が隣で楽しそうだからかもしれない。こうして一緒にのんびり過ごす時間が良いのかそれとも珍しい光景を見ているから良いのか。隣にいることがすごく心地いいんだ。




「ねぇ、洋貴」

「んっ?何?」




無意識につい呼んでしまった名前に洋貴がまるで子どもみたいに楽しそうに返事をした。あ、そっか。




「ううん、やっぱ何でもない」




えー何?、と不思議そうな声を出してこっちを向いた洋貴に気付かないふりをして私はまた一段と欠けだした太陽を見て小さく笑った。こんなに夢中になっちゃう可愛い洋貴がまた見れるといいなーなんて。『また一緒に見れますように』とそんな言葉を今日の太陽にお願いしたのはもちろん私だけの秘密だ。






I wish
(この先も隣に居たいな)

2012052

1997