「あ、」

「あ?」




あまりのことに思わず声を出せば私の真横でおにぎりを選んでいた洋貴が不思議そうに私を見た。どうした?と首を傾げる洋貴に何でもない!と慌てて首を振って片手に持ったお財布を握り締める。やばい。今日バレンタインだ。



「なまえは決まった?」

「あ、いや、ちょっと待って!」

「じゃあ飲み物見てて良い?」

「う、うん!どうぞどうぞ!」

「、?」




あははっと不自然に笑って私は洋貴が離れたのを確認して慌ててお菓子棚へと移動する。あ、やっぱり今日はバレンタインだ。改めて見てみるとピンクの看板にハート模様。こんな大きな看板なんで見えなかったんだ私は。洋貴に気づかれないようにそろりとバレンタイン特集の陳列棚へと移動して思わず立ち尽くす。いくら収録の合間にお昼を買いにコンビニに来たからと言って、何で私は財布だけ持って来たんだ。せめて、せめて女子らしくカバンは持ってくるべきだった。可愛らしくキラキラと包装されたチョコはコンビニ袋からではひと目で分かるその存在。これは今買ったのバレるじゃん。


「なまえ?」

「あ、待って!もう決めた!」

「本当?じゃあ一緒に買う?」

「あ、いや、細かいの持ってないから今日は大丈夫!」




ありがと!とまたあははっと不自然に笑い、私はおにぎりと一緒にお菓子棚のチョコを何個か手に取りレジへと持っていく。ごめんね洋貴。私はなんて不甲斐ない彼女なんだろうね。




「何買ったの?」

「え!な、なんにも!」

「え、おにぎりの話だよ」

「あ!おにぎりね!おにぎりは鮭と昆布!」

「やっぱり言うと思った」

「え、何それ」

「だってなまえの定番だから」

「そ、そうかなー?」




そうだよ、と笑う洋貴にうーんと首をかしげてコンビニ袋を覗けばさっき一緒に買ったチョコが見えて私は慌てて袋を閉じる。こんなチョコでもいざバレンタインとなると何だか恥ずかしく思えるのは気のせいだろうか。腹減ったなーとボヤく洋貴にうんうんと頷きながらどんなシチュエーションで渡すか私のどうしようもない脳みそがフル回転で想像する。好きって言って渡す?それとも余ったから渡す的な?いやいたそれとも無言で差し出すとかっ?




「あれ、そういや今日何曜?」

「え、今日バレンタイン!」

「え?」

「あっ…!」




しまった!と心で呟けばぶわっと顔が赤くなった気がして私はおにぎり入りの袋ごと洋貴に突き出して、間違えた!とだけ呟いて思わず洋貴から視線をそらす。これは色々とまずいんじゃないか。恥ずかしい感じなんじゃないのか。ガサリと受け取られた袋にサッと手をどかして洋貴を見れば視線がばちりと合ってその瞬間に洋貴がプッと吹き出す。




「おにぎりまでくれるつもり?」

「いや、それはダメだわ!」

「じゃあバレンタインでもらっていいのはこれ?」




洋貴が袋から取り出したそのお菓子に私は、うっ、と少し躊躇いながら一度だけ頷く。やっぱりこれはまずかっただろうか。




「ブラックサンダーね」

「………」

「誰かさん達の影響かな?」

「いや、洋貴も好き、でしょ?」




そう言って笑う洋貴に首を傾げればクスクスと笑うのを必死に堪えながら私をチラリと見てまた目を伏せる。ちょっ!何っ?慌てて問いただせば洋貴が袋から取り出したブラックサンダーを見て私の頭に手を乗せる。




「もちろん好きだよ」

「なら、いいじゃん」

「でもこれのバレンタインのキャッチコピー知ってる?」

「え?」

「一目で義理だと分かるチョコ」

「っ!」

「もしかしてこれ義理?」

「違っ!本命っ!」




俯向きかけていた視線を思い切り洋貴に合わせてそう言えば洋貴はもう耐えられないとばかりに豪快に笑い出して私の頭を少し乱暴に撫でる。




「あー焦った」

「ちょっ…!」

「また義理チョコ関係に戻るのかと思った」

「それは、ないけど…」

「じゃあ言って欲しいな」

「な、何を…?」

「本命の言葉、聞きたい」

「っ!」



「好きって言ってよ」










chocolate


若い女性に大人気な例のお菓子、ブラックサンダーさんのバレンタインキャッチコピーが好きすぎて書きたくなりました。よく100均の型とかで義理チョコって書いてあるチョコもらうよりかは100均で箱買いしたブラックサンダーを配られる方が嬉しいよね。




20130214(Happy valentine!)
1997