卒業してから何年ぶりになるんだろうってぐらい久々に学生時代に仲の良かった連中と飲みに行くことになった。みんなそれなりに連絡を取り合ってれば個々では会ってたりとか色々。俺も連絡ぐらいするやつはいるし、偶然出会って飯食いに行く奴もいた。うん、例えばなまえとか。




「おっ!やっと着たな中村!」

「久しぶりー!」

「立ってないで早く座れよ」




居酒屋ののれんをくぐってちょっと行った先の座敷。閉じられたふすまをゆっくりとを開ければ懐かしい顔ぶれが俺の顔を見て一気に喋りだした。おう久々、なんて俺も適当に挨拶をすれば野太い声に紛れておーい悠一と俺の名前を呼ぶ声がする。




「おう、なまえ」

「何だよ来るの早かったじゃん」

「まぁ、仕事早く終わったから」

「だったら一緒に行けたじゃんかよー」




あの時断ったくせにと前回一緒に飯を食いに行った時のことを思い出してなまえは俺に冗談めかしく文句を垂れた。




「仕方ねぇだろ、あん時は分かんなかったんだから」

「でもメールぐらいしろよー」

「そん時だけ電池切れた」

「どんな言い訳だっ!」




あははっと笑ったなまえが隣に腰を下ろした俺の腕を軽く叩いた。盛り上がりを見せる席からは「相変わらずだな2人共」とどこか昔を思い出すような冷やかしめいた声が聞こえる。何も変わらない安心出来る空間がひどく懐かしくて少し愛しく思えるのは俺が老けた証拠だろうか。




「じゃあ全員揃ったしもっかい乾杯するかー!」

「いいねー」

「じゃあ乾ぱーい!」




渡されたビールを片手にグラスとグラスをぶつけ合う。どうもこいつらといると学生気分になれるから不思議だ。仕事の話もそこそこに。あの時はあーだのこの時はこーだの尽きない思い出話がどんどん出て来る。




「悠一よく現代文の授業で音読させられてたじゃん」

「あぁーそうだったかもな」

「そんで教科書忘れたって言うから私の見せて上げたら私が描いた落書き見て爆笑し始めて」

「あーそんな事あったな中村!」

「あったかっ?」

「悠一立ったまま笑ってやんの!」




あれは面白かったーといひひっと可笑しそうに笑ったなまえが俺を見てまたプッと吹き出す。




「お前だって人の事言えねーだろうが」

「私優等生だったもーん」

「どこがだ!」

「いや全部がっ!」

「遅刻横綱とか呼ばれてた奴がよく言うぜ」

「違うっ!大関止まりだもん!」






負けじと対抗した俺になまえがクソーと悔しそうな声を出した。言われてばかりにしてられっかよとバカにしたようにニヤリと笑えば、始まった始まったと周りの奴等が呆れたように笑い出して俺等を見た。






「お前等相変わらずだねー」

「相変わらず?」

「この光景は名物だったな」

「勝手に名物にすんな」

「昔を思い出して泣けるぜ」

「お前は泣くな」

「つーかお前等って本当仲良いよな」

「あー…」






そう言って笑い合ってるこいつらを横目に俺は思わずなまえを見た。こんな感じが昔からお決まりだったからあまり考えたことが無かったがそうか俺等って仲良しだったのか、と今更ながら意識してしまう。






「だって私達幼なじみみたいなもんだしね」

「あーそうか」

「小中高と一緒だから」

「言われてみればそうだな」

「えっ、そうなのかよっ?」

「幼なじみとか初耳だぜ」

「そうそう幼なじみー」




家はあんまり近くないけどねーと笑ったなまえが俺を少し見てからみんなの方を向いてまた微笑んだ。




「それから後もう1つはねー」

「おう、何だよ」

「私が悠一を好きだからかな」

「はっ?」

『えぇっ!』




俺と一緒に驚きの声を上げたみんなが一気に俺等を見てニヤつき出した。な、何言ってやがんだこいつは!と動揺しまくる俺にクルッと顔を向けたなまえが、知ってた?なんて昔みたいに無邪気に笑うもんだから俺の胸の奥でジリジリと何かが音を立てた。





愛の嵐
(恋愛注意警報発令)


20120403
1997