(※学パロ)


「あーもう外真っ暗じゃん!」




私がそう言えば、本当だなぁと気の抜けるような返事をした悠一にコノヤロウと舌打ちしてやりたいのをこらえて変わりに鞄を胸に押し付けた。





「鞄を持ってもらおうか」

「えー何でだよ」

「あんたさっきの恩を忘れたとは言わせないからな」




はい!と更に鞄を押し付ければ悠一はそれを渋々と受け取った。本当にこれぐらいはしてもらわないと気が済まない。なにせなくしたと困っていた部室の鍵をこの私が一緒に探して上げたんだからな。




「つーか俺チャリなんだけど」

「えーチャリかよ!鞄持ち終わんの早っ!」

「そうだな」




せっかく持たせたばかりの鞄だったがどうやらここまでらしい。下駄箱からの短い道のりを初めて憎たらしく感じてから悠一の方を向いた。




「じゃあもう良いよ、へいパス」

「へいパース」

「ん、サンキュー」



ドサリと渡された鞄を無言で背負ってからチャリに鍵を差す悠一にじゃあ先帰るー、と片手を上げた。どうせ抜かれるのは分かっちゃいるが校門ぐらいは先に出てやる。そんなことを思いながらスタスタと歩いていればあっという間に追い付いた悠一がはぁとため息を吐いた。




「何だよ先行くか普通」

「行くだろ普通」

「つーかあれだほら」

「どれだほらぁ」

「乗れば」

「はっ?」




あまりの突然の事に驚いて間抜けな声を出せば悠一が私の背負った鞄をガシリと奪い取って少し乱暴にかごへと乗せた。




「鞄持ちはまだ続行な」

「お、おう」

「ほら早よ乗れよ」




そう言って急かす悠一のいうようにおずおずと荷台に乗れば何も言わずに自転車は急発進する。





「うっわ危なっ!」

「ちゃんと掴まれよアホか」

「いや今のは悠一が悪いわアホ!」




バシッと背中を叩けばはいはいと悠一が声を漏らす。いったいどんな顔してんだか知らないが背中しか見えない悠一になぜだか少しドキドキしてしまう。特にこれと言って話すこともくただ黙々と自転車は前に進む。いつもの景色のはずなのに今日はやけに違って見えて何だか月明かりにすらそう感じる。




「…あ、」

「っんぶ!」

「あ?」

「痛たぁー…」




急に止まった自転車でどんっと悠一の背中にぶつけた鼻がズキズキと痛んだ。お前バカか?と心配より先にけなし言葉の出てくる悠一に本気で苛つきながら振り向いた悠一を睨み付けた。




「お前急発進の次は急停止か!」

「あぁ、悪りぃ」

「つか何?忘れ物っ?」

「いや違くて思い出した」

「何をっ?」

「今日はブルームーンってこと」

「ブルームーン?」




何のこと?と首を傾げれば月をチラリと見た悠一がブルームーンについてペラペラと話す。あぁそういえば確か今日は女子がそんな話で盛り上がってたなと。




「見ると幸せになるらしいな」

「へぇーそうなんだ」

「お前ちゃんと見とけよ」

「言われなくても見るわ」

「まぁあれだな、お前幸せになるといいな」

「えっ?」

「面倒事やらされたり色々不幸だからなー」

「っ、余計なお世話だ!」




へへへっとどこかからかうように笑った悠一に私はまた背中をバシリと叩いけばやっと痛てぇと声を出した。





「失礼なやつだなお前は」

「いやこれ詫びのつもりだから」

「どこが詫びだボケぇ」

「今日の鍵探しだって面倒事だろ」

「はっ?」

「だから悪かったってことでさ」

「えっ、」

「その詫びの月」




そんなこと言って困ったようにハンドルにもたれかかった悠一は私の顔を少し見てから空へと視線を向けた。





「別に詫びなんて良いのに」

「あーそうだった?」

「というかまず不幸じゃないからな」

「へぇーそっか」

「今日だってそこそこ楽しかったし」

「うん」

「今だって別に幸せだと思う」

「はっ?」

「えっ?」




驚いたように私を見る悠一に胸がドキッとした。あれ今なんかすごいこと言ったよ私。カァっと顔が熱くなるのを感じれば月明かりに照らされた悠一の顔も同じように熱を帯びて赤くなっているのが見えた。



「いや、今のは何だそのっ」

「あ、別にもう、いい」

「も、もういいって何だそれ」

「いや、俺もあれだし」

「ど、どれだし」

「なんつーかさ、」

「な、何だよ」


「幸せ?」






ブルームーン

(何で疑問系なんだよ)
(うっせーよバカ)



20120901(リアルから)
1997