人生に1度きり記念すべき式典がこんな天気とは実についていない。「思い出に残るね」というそんな慰めの言葉をかけてくれた知らないおばさんに笑顔で頷きながらシンシンと降る雪を恨めしく見つめた。寒いとかそんな次元の問題じゃない。これは本当の本当に凍え死ぬ。




「もう無理だ…」

「だからあと少しだろうが!」




何回無理って言ってんだ!と私の横で怒った悠一に、だってお前!と叫んでから大きな溜め息を吐く。もう寒くて言い返すのも面倒くさい。傘を持つ手が真っ赤になって足袋はびちょびちょと冷たさが増す。傘で引っかかる頭の飾りと悠一に苛々しながらサクリと雪を踏んだ。




「……邪魔くさいわっ!」

「っ!?」




とうとう頭から取ってしまった髪飾りを投げ捨てたい衝動を抑えて隣で驚く悠一に押し付ける。あぁやっちまった。




「お前何やってんの?」

「分かんないわバカちんが」





仕方ねーなーと呆れる悠一が唯一持っていた紙袋にそれをしまってまたぶつくさと説教を始める。




「もう建物見えてんだから頑張れよ」

「頑張ってるよ頑張ってる!」

「いつももう少しおしとやかに過ごしてたら楽だっただろうになーお前」

「うっさいわ!」




振り袖と裾と鞄と更には傘まで持ってもう私の両手はいっぱいいっぱいだ。スーツ姿の悠一を羨ましく思いながら一歩また一歩とやっと見えてきた誘導看板を支えに歩く。




「あと500mか」

「うわー長ぁ…」

「近いだろ」

「嘘言え」

「あとは坂下るだけだろ」

「坂っ…!」




悠一のその言葉にハッとしてそういえばあの会場は坂下にあったんだと今更ながらがく然とする。こんな雪が積もった坂道をこんなへなちょこな私が果たして下れるだろうか。




「こ、ここまで来て負けるか」

「何にだよ」

「神様は乗り越えられる試練しか与えないって誰かが言ってた!」

「安っぽい試練だなぁ」

「うっしゃぁ!行くっ!」

「つーか、なまえ」

「うん?」




サクリと一歩を踏み出した私に悠一が、ほら、と私の方へと腕を差し出す。はっ?と思わず情けない声を出せば、なぜかばつの悪そうな悠一が傘を閉じて私の傘を奪い去る。




「ちょちょちょ!」

「掴まれよ」

「えっ、え?」

「その方が歩きやすいだろ」

「う、うん?」

「坂道で転ばれても困る」




ほら、と傘を持った腕を私に突き出して悠一は照れくさそうに私を見た。うん、と小さく頷いて悠一の腕を掴めば、あぁ本当だ。歩きやすいね。




「歩きやすい、」

「うん」

「ありがと」

「あぁ」

「傘重くない?」

「別に」




ポツリポツリと喋るのに思わずクスリと笑ってしまえば、少し不機嫌そうな顔の悠一が、んだよ、とチラリ私を見る。私より大きな身長とたくましくなった背中。いつからこんなに変わったっけ?いつからこんなに頼れるっけ?




「なんか悠一さ、」

「はぁ?」

「大人になったね」

「…うるせぇ」





grow up
(そうだ僕等は大人になった)


(でもこれどっちか転けたら道連れじゃん)
(絶対転ぶなよなまえ)
(いやいやお前もな)


20130121(祝!成人)

1997