白いワイシャツに黒いスラックス。茶色いエプロンに皮の靴。初めて着る制服はまだパリパリでいかにもバイト初日感。そんな緊張の初日に一緒に働くのはちょっと目つきの悪いごじゃっぺなお兄さんだった。



「新しく入りました#name2##name#と言います。よろしくお願いします」

「どうも。中村悠一です。こちらこそよろしく」



ぺこっと小さく会釈した中村さんはチラリと私をみてすぐに目を反らした。あら、何だか緊張。メモ帳とペンを握りやる気十分な私に反して、少しやる気なく眠たげな中村さんはゆっくりと話す。


「あんまり店のこと聞いてないでしょー」

「そう、ですね、世間話をして終わった感じで」

「んーまぁまずこの店はオールマイティーだね」

「オールマイティー?」

「もう何から何までやるから、俺等」

「俺等のらには私も含まれるんですね」

「そらねー。キッチンも厨房もやろうね、みたいな」

「は?」



厨房、だと…!ため息混じりにOK?と尋ねてくる中村さんに無理矢理はいと頷いて笑う。いや、不安。オールマイティーとか私に不似合いなお言葉すぎて笑えるよ、とは口が裂けても言えないがまぁ何とかなるよーと話す中村さんに乾いた笑いが漏れる。



「騙されたと思った?」

「いや、厨房は初耳でした」

「まぁ人手足りない時ねー」

「ちなみにどんな料理を」

「料理のメニューは店長と厨房さんの気分で結構変わるかな」

「わお」

「まぁ俺でも出来っから問題ねえ」

「成長させて頂きます…」

「おー前向きで偉いねーすごいわー」


へらりと笑う中村さんに私も愛想笑い。楠木店長の適当さもさることながら中村さんの適当さ、対応能力もすごい。てか他に働いてる人もすごいな、あはは。



「ま、基本暇な時はコーヒー落としとけばいいから」



とコポコポと音を立てるコーヒーメーカーを指差した中村さんはなんかもう日本一コーヒーメーカー似合います。だらだらと食器の位置やら掃除の仕方やら雑務を教えてもらう。メモも取りつつ、中村さんとも仲良くなりつつ。平和だなーなんて思ったのも束の間、ちょうどお昼を回った頃、今日初めてのお客さんがやってきた。じゃ見学で、とボソッと呟いた中村さんは何だかさっきとは別人でテキパキと接客をしている。誰よあれ。メニュー表片手に微笑む中村さんはそらもうベテランでやっぱメニュー表が日本一似合うかもしれない。



「以上でよろしいでしょうか?かしこまりました」



あっという間に接客を終わらせカウンターに入ってきた中村さんはさっさと厨房にオーダーを済ませ、さてと私を見た。



「ま、あんな感じだから」

「別人級ですね」

「午後は混むからさ、あんな感じで」

「ん?」

「今日は2人で回すから注文1人で頼んだよ」

「え…?」



今何かよからぬ単語が聞こえた。1人。うん。たぶん1人。オンリーワン。



「え、1人ですかっ?」

「うん、見学したし」

「え?え?」

「見学とは即ち、見て学ぶよ」

「なるほど、なるほど?」

「#name#ちゃんならいける。もう余裕のよっちんさんだから」



な?と小さく笑う中村さんによっちんさんて誰ですか、と突っ込みたかったが今はそれ所じゃない。1日目にしてハードル高いな。やっぱ騙されたかな、え、本当に。



「さーまぁ頑張るかー」



何か言ってやりたいと思ったが、気だるそうな声と裏腹に今日1番の笑顔を見せた中村さんにあーなんかやっぱりどうでもいいや、とか思う私も案外適当な人間かもしれない。







よく分からないけど…
なんかいけそうな気がするー



1997