「大丈夫、ハンサムは何も出来ないから」
「え?」
「ん?」
ハンサムというのは小野さんで小野さんといえばハンサムで…。つまり小野さんは料理が何も出来ないってことでしょうか?
「それは…そのままの意味でしょうか?」
「そのままの意味。料理は何も出来ないってこと」
「えぇ!」
「うわぁ、いいリアクションだね」
ヘラリと笑っている小野さんにつられて笑ってみたが安元さんの苦労に思わず涙がこぼれそうになる。オールマイティのオールマイティって何?
「じゃあ、厨房って安元さん1人で回してるんですか?」
「うーんまぁ何人か出来る人もいるけどね」
「でも俺も最近は出来るようになりましたよね!安元さんっ!」
「まぁ、前よりかは頼れるようになった、かも…」
少し悩みながら返事をする安元さんにとりあえず優しいの一言が頭に浮かぶ。小野さんでもOKなら気張らずにやれるという少しの安心と完全なる人員ミスな配置にやや心配になる。
「あー安元さんオーダー。パスタ1つとたいてむサラダ1つ」
「あ、」
「はいよー」
今日初めてのオーダー、と今日初の中村さん。ヒョイと厨房に顔出して少し忙しそうに戻っていった。あーどうせなら私もそっちに連れて行って下さい中村さん。私に仕事させて下さい中村さん。
「ってことだからごめん#name2#さん!ちょっとハンサムに教わってて」
「え?」
「了解しましたー」
マ ジ で か !
若干の不安を感じながら小野さんを見れば私の視線に気付いたのかニコリと微笑む。うん、ハンサムなのは分かった。でもしかし。先ほどの調子で何を教われるんだろうか。
「じゃあ、お皿でも洗おっか」
「あ、はい」
安元さんがせっせと料理を作ってる中、私達2人はのんびりじゃぶじゃぶとお皿を洗う。注文が来た時は雑務に回り邪魔にならないのがポイント、という小野さんからの流石のアドバイスを聞きつつ安元さんの手際の良い動きをあたかも自分のことのようにドヤ顔で小野さんは話す。うん、何か良い人なのは確かだ。
「あ、そーいえばさー」
「はい」
「このお店の人とはどれだけ会った?」
「えっと、店長と中村さんと杉田さんと小野さんと安元さんの5人です」
「お!強烈キャラにまだ会ってないね」
そう言ってニコニコする小野さんに、今まで会った人全てが強烈です、とは言えないのでとりあえずお得意の愛想笑い発動。私、笑顔が成長してる。2人でやったのと話していたおかげであっという間に終わった洗い物に少しの達成感。最初は不安しかなかったが少しの時間で小野さんとは仲良くなれた気がするのでなんか嬉しい。まぁ、教われたことないけど。
「でも基本的に厨房もホールも暇なんだよねー」
「あはは、それ中村さんも言ってました」
「お客さん来ないとやっぱりね」
「ちなみに暇な時厨房は何するんですか?」
洗い場から調理器具エリアへ移動し、フライパンの整理をする小野さんにふと尋ねる。フロアはコーヒーを落としたり灰皿綺麗にしたり。厨房もやることがあれば少しは楽しい気がする。
「んーまぁ、仕込みでフライパン振ったりー」
「あ、厨房っぽい」
「あとは腰を振ってればいいよ」
「はっ?」
本日2度目の言葉に慌てて口をふさいだ。最初のあたりまではいい。だって厨房だし鍋ぐらいフライパンぐらい振るよ。でも腰を振るって厨房関係ないし。というか何を言っているんだこの人、と微妙に戸惑っていればいきなりホイホイと腰を横に振りだした小野さんに思わずメモ帳を落とす。ちょ、ちょい待て。どんなリアクションをすればいいんだ。
「さぁ!#name#ちゃんもご一緒に!」
「いや!結構です!無理です!てか小野さんその発言まずいっ!」
襲 わ れ る ! !
なんか字が違うほうでおそわれる。上手くない、全然上手くない。研修に来てるから、ラーニングしにきてるから。やっぱいけねーわ。フロアで生きてくよ私は。褒められても伸びれないここではーーーー。
バコン
「あ、」
「おいハンサム、#name2#さんどん引きだから」
少し鈍い音が鳴ったと思えば安元さんの深いため息と、小野さんの後頭部に当たる銀色のおぼん。
「痛い安元さん」
「今のはお前さんが悪い」
「安元先輩…!」
タイミングが良過ぎる安元さんはもはや仏である。有難やーと感謝の眼差しを向けていればものすごく真剣な顔の安元さんが静に私の名前を呼んだ。
「#name2#さん」
「は、はい…?」
「おぼん。あそこにあるから」
「………はい」
「え、ちょっと」なんて私達の横で騒いでいる小野さんを放っておく。それが今の私達の最善の策だと思う。
安元さんが包丁を持って襲った理由が分かりました。
でもしばらく「ホールに居たいです」とたいてむ店長に頼もうと思ったことは2人には内緒にしよう。
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