「なまえちゃん！」 「何ですか小野さん」 「チョコレートは？」 「はい？」 「いやだからチョコレート！」 私は思わず半目になった。自らチョコレートを催促しに来た人は初めてだ。どんだけ図々しいんだか。はぁぁとため息を吐いて鞄から取り出したチョコレートを小野さん目掛けて思い切りに投げつけた。 「わーいチョコレート！」 「私投げつけられたチョコを喜ぶ人初めて見ました」 「なんか果たし状みたいで格好良くね？」 「意味分からないんで帰って下さい」 「あはは」 あははじゃねえ。本当に早く帰って下さい。何だか冷めてしまった私はぷいっと小野さんから視線を外し読みかけだった台本にもう一度集中する。隣には未だにニコニコと笑う小野さんが居るが今は知らないふりをしよう。 「ねぇなまえちゃん」 「………」 「あのさーあ」 「……何ですか」 「チョコ、食べても良い？」 嬉しそうに目を輝かせて聞いてくる小野さんに呆れて声も出ない。いやいやいや目の前で食べるとか公開処刑か。だいたい自信ないんだから家に帰って食べてくれ。てか乙女の気持ちを察しろ。「良くないです」と断ろうとすれば「ダメ…？」と私の顔を覗き込んできた小野さんに不覚にも照れた。チクショウこのハンサムが…！ 「そんなこと言う人初めて見ました」 「えー本当に？」 「何か今日初めてが多すぎて疲れました」 「本当か、なまえの初めてを貰えて光栄だ」 「気持ち悪いしさり気なく名前で呼ぶのやめて下さい」 「あは、バレた」 「バレます」 「もちろんチョコも貰えて光栄だよー」とニッコリ笑った小野さんに本格的に顔が熱くなった。だだだってそうだろう!私なんかが作ったチョコレートを。更には投げつけて渡したチョコレートをこんなに喜んでくれるなんてそんな人居るもんかと。なんかそれってちょっと、う、嬉しいじゃないか…!「食べても良い？」ともう一度尋ねてきた小野さんに。 「し、仕方ないですね。特別ですよ」 「やったー」 と情けなくも簡単に許してしまった私はきっとチョコレートより甘い人間だ。 Happy valentine やっぱり小野さんは気持ち悪くストレートに。そして彼女はツンデレ、と思いきや何か目覚めかけてます。危ないっなまえさん(違う)! |