「ねぇ食べないの?」

「ん?食べるよ」

「そ、そう…」






この会話も何回目だ。別に急かしてるわけじゃないけどこんなに見つめられると何だか恥ずかしい。何を見つめるって正確には私ではなく私の作ったチョコケーキをだけど…。






「溶けちゃうよ?」

「でももう少し」

「そうなの?」






コクリと頷いた広樹に何となく落ち着けずにいる。なぜならバレンタインに作ったケーキを広樹はこの何分も食べずに見つめているからだ。






「食べないの?」

「うんもう少ししたら」

「でもやっぱさー…」

「いやなんか勿体なくて」

「勿体ない?」

「食べるのが勿体なくて」

「そ、そんな…!」






ニコッと微笑んだ広樹に一気に顔が熱くなった。たかがチョコレートケーキで何をこんなにも喜んでくれるんだ。






「ただのチョコケーキじゃん」

「だって頑張って作ってくれたから」

「まぁそうだけど…」

「レシピとか一生懸命見てたのも知ってるんだ」

「え、見てたのっ?」






「ごめん見てた」と小さく笑った広樹はもう一度チョコケーキに目を向けた。もうさっきから顔が火照りっぱなしだ。ここまで喜んでもらえると本当に彼女としても有り難い話だ。






「でもまた作るよ?」

「本当に?」

「もちろん」

「それなら食べちゃおうかな」

「広樹のために作ったんだもん、食べてあげてよ」

「あ、今の台詞良いね。俺のためってあたり」






クスクス笑ってやっとナイフを持った広樹が少し残念そうにケーキを切り分けた。






「じゃあなまえも一緒に食べよう」

「え、私も?」

「そうだよなまえも」

「でも広樹のため作ったのに…」

「俺のために作ってくれたんでしょ?だったら俺のために一緒に食べて」

「、?」






俺のために一緒に食べて。どういう意味が分からなくて少し首を傾げればにっこり笑った広樹が私にフォークを手渡した。






「俺の幸せが増えるためにさ」










Happy valentine



なんか言ってくれそう。素直そう。言われたい←

1997