「あ、お疲れ様です」

「お疲れなまえ」






にっこりと笑った鳥海さんに片方の口角だけ上げて小さく笑う。可愛くないね私ったら。だけど良いよなぁ男は!いや、モテ男は良いよなぁ!きっと鳥海さんがいつも以上に機嫌が良さそうに見えるのは今日が2月14日だからだろう。なんだよバレンタインなんて!







「機嫌悪いの?」

「いいえ、全く」

「もっと可愛く笑えよ」

「すみませんね、元々こんな顔です」

「元も可愛いだろお前」

「っ…!思ってもないこと言わないで下さい!」







本当になんだこの人。熱くなった顔を見られないように私はそっぽを向いた。きっとこんなことばっか言って女の子を射止めて今日はたくさんのチョコレートを貰ってるに違いない。そしてなにより私もその1人だから嫌になる。






「思ってるんだけどねー」

「そういう冗談はよそでやって下さい」

「冗談って本当なのにね…」







まだ言うかこの人は…。軽く睨みつけてやればまたまたにっこり笑って私を見た。こんな調子じゃチョコが渡せそうもない。情けなくうじうじと躊躇っていれば鳥海さんが腕時計をチラリと見て「ごめん」と私に言った。






「俺、次の仕事行かなきゃだわ」

「えっ」

「もっと可愛く笑えよ、せっかくのバレンタインなんだからな」

「え、あの」







そう言って私から少しずつ離れていく後ろ姿に私は堪らず名前を呼んだ。ダメだ。勇気を出さなきゃ。ゆっくり振り返った鳥海さんに駆け寄って今まで隠していたチョコを思い切り突き出した。








「チョ、チョコ…」

「俺に?」

「あ、余ったので上げますっ!!」








一気に熱くなった顔が恥ずかしくて下を向く。素直じゃないなぁ。これは嫌われたかも。突き出したチョコがゆっくりと手から消えていくのを感じて何だか切なくなる。あーあさよなら私の恋、なんて泣きそうになれば「なまえ」と鳥海さんが名前を呼んでからクスクスと笑いだした。な、何だいきなり。思わず顔を上げてしまえば鳥海さんとがっちり目が合う。

「だからもっと可愛く笑えよ」

「なっ!」

「いや、でも可愛いな」

「っ…!」

「やっぱその顔他の奴には見せんな」









勘弁してくれ。体中が熱くて湯気が出そうだ。しかしそんな私を知ってか知らずか鳥海さんはにっこり笑って呟いた。








「ホワイトデー楽しみにしとけよ」








Happy valentine



鳥海さんのほうが一枚も二枚も上手って感じで。ホワイトデーどうなっちゃうんでしょうね。
1997