席替えしたら特等席になった。窓側1番後ろ。教室のどんな所でも見渡せて隣の校舎の教室も屋上も空も中庭の植物も全部全部見渡せる最高の席。プリントの回収は少しだけ面倒くさいけど授業は専ら外なんか見つめたりして私はこの特等席を楽しんでいる。






「プリント後ろから集めて」






あぁきたきた。私の唯一のお仕事だ、と席を立てばいつの間にか時計の針は11時を過ぎている所だ。そういえばそろそろ出て来る頃かな。プリントをのろのろと集めながらそんなことを考えていたら案の定屋上のドアが開いてつなぎ姿の大きな体がやって来た。ほらね、やっぱり。






「じゃあ次は教科書40ページ」






帰りものろのろと1番最後に席に着けば、そう言った先生が教科書を手に持った。40ページね。ろくに見もしないのに教科書を開いて窓の外に視線を向ければ外から入ってきた微かな風にせっかく捲った教科書がパラパラとページを進めた。






「じゃあ20日だから20番ここ読んでー」






そんな声も聞こえずに屋上の人物を見つめれば頭にかかっていたタオルを首にかけるとぐっーと長い伸びをした。気持ちよさそうだな。伸びをした瞬間に心地良く吹く風に私はついついそんなことを考えて、私は教科書を閉じた。






「先生」

「んーどうした#name2#?」

「体調悪いんで保健室行ってきても良いですか?」

「ん?あぁ、分かった」






気を付けて行けよ、と心配する先生に軽く頭を下げて私は少しずつ足を早めながら屋上へと続く階段を駆け上がる。ガタン。少しだけ重たい扉を思いっきり開ければ私の体を心地よい風が吹き抜けた。






「、?」

「……」

「あーえっとー…授業は?」

「あぁ…サボリ、です」

「あはは、そんなあっさり」

「そういうあなた、は?」

「んー俺はねー気晴らし」







そう言って空を見上げて指をさした人物はうちの学校の主事さんだ。気晴らし。私もぼそりと呟いて空を見上げれば真っ青な空に白い雲が1つ。






「例えばあの雲はどれぐらいのスピードで動いてるのかとか」

「あの鳥はどこまで飛ぶのかとか」

「あとは風が気持ちいいなとかね」






そんなこと考えてるよ、とそう言って主事さんが笑えばちょうど風が吹いて私の髪の毛を揺らしてゆく。






「君はどうしたの?」

「あっ…、サボリというか何と言うか…」

「空気でも吸いに来た?」

「いえ、主事さんが見えたので」

「えっ?」

「あ、いや…」






自然に口から漏れた言葉に私も主事さんも驚いて、交差した視線を慌てて逸らした。突然質問されたのとか主事さんの優しい口調とか。そんなことにいちいち照れくさくなったせいか何だかとんでもないことを私は言ってしまったようだ。






「いや、あの、いつも教室から見えてて」

「え、本当に」

「だから、気になって…」

「そっかー見えてたんだ」





そう言って困ったように微笑んだ彼に小さく頷けば、突然プッと小さく噴出した主事さんがクスクスと笑いながら私を見つめた。






「ごめん、本当は知ってた」

「え?」

「君の名前は?」

「えっと、#name2##name#です、」

「そっか、#name2#さんかっ。俺も君を見てたよ」

「へっ?」

「中庭の鳥の巣、いつも見てたでしょ?」

「なっ…!」

「あの巣に気づいてるの俺と君だけ」

「っ!」






突然そんなこと言われたらなんて言ったら良いのか分からなくなってしまう。何か、何か言わなきゃと頭では思うのに全然声なんて出なくて、それに対して優しく笑う主事さんに私は更に恥ずかしくなる。






「まだまだ小さいからさ、巣立つまではそっとしてあげてね」

「は、はい…」

「だからこれは、2人だけの秘密」

「っ、」

「ねっ?」






そう言ってまた私に笑いかけた主事さんにドクリとはねた心臓がいつもとは違うスピードで鼓動する。いつも見ていたこの場所でこんな秘密が出来たのは何だかとてもいけないことをしているみたいで私の心臓は更に早まった。












いちばんうしろ


安元さんが少し気崩れた薄水色のつなぎを着て袖を腰で巻いて脚立乗りながら電球とか取り換えてたら私はそっと脚立を支えます←


20120625
1997