だから雨は嫌いなんだ。そう心で呟けば雨が一層強まった気がして私はため息より先にチッと舌打ちをしたくなった。あとは、あとはお家に帰るだけだぞ私は。ザーザーと勢いを増す雨に私はスタジオの外で立ち尽くした。誰か、例えば手頃な悠一とかスタジオから出てきてタクシー割り勘な的な感じにならないだろうか。 「いや、それはないな…」 ふぅと1回ため息を吐いて、タクシーを止める為に私は手を挙げた。ヘイタクシー。何でも良いから止まってくれ、と思わず願えば予想外にあっさり止まったタクシーのドアがガタンと開いた。いつもより少し多めな手荷物をポイッと先に座席に投げ入れてふいにスタジオに視線を向ければ、遠くからでも分かる姿に思わず小さく声が漏れた私はとっさにその人物におーいと手を振った。 「あっ」 「安元くん駅行くー?」 「い、行くっ!」 「相乗りいかがー?」 「マジでかお願いします!」 鞄を濡れないように抱えながら走ってきた安元くんが私の隣に急いで乗り込むとタクシーはゆっくり走り出した。 「助かったよありがとう」 「いえいえ」 濡れた上着をハンカチで拭いながら安元くんが私に笑いかけた。困った時はお互い様だからねと私も笑い返して相変わらず激しい雨空を見上げれば分厚い雨雲がゆるりゆるりと風に流されている。 「雨降るなんて知ってた?」 「知らなかった」 「予想外だよね」 「本当に」 台本濡れたー?なんてたずねながらたわいのない話をぐだぐだとしては時々笑ってまたたわいのない話をして。安元くんとは仲が良いけどこうやって2人きりなのは珍しいもんで。更にはこんなにみっちゃくしているのもなかなか恥ずかしい気もしてろくに安元くんの顔も観れなくなったりして。 「まだ次あるの?」 「うん、あと1つだけね」 「ほほう、大変だね」 「あ、その言い方はもう終わり?」 「うん、さっきのでね」 へへへっと笑えば安元くんが羨ましいなーと笑って少し肩をすくめた。雨なのに大変だね、なんて人事みたいに呟いたけど私も家帰るまで大変だったわ、とそんなことをふと感じてちょっと複雑な気持ちになった。 「安元くんが帰る前には止めばいいね」 「それより#name#が濡れないように今止めばいいね」 「えー今は無理だよー」 どうか分かんないよーと笑う安元くんに少し照れくさくなりながら私も笑い返せばもうすぐそこに駅が見える。意外と早いなーなんてちょっと残念に思いながら財布を出せば、それよりも先に「はい、お釣りです」という声が聞こえてそそくさと鞄を抱える安元くんが目に映った。 「え、あ、安元くんっ?」 「ほら降りるよ#name#!」 「え、ちょっと…!」 ありがとうございました、と挨拶をしてタクシーを降りた安元くんを追うように私も慌ててタクシーを降りればさっきより弱まった雨が私の顔に当たった。 「安元くん!」 「何?」 「お金お金っ!」 「良いって別に」 「いやいや良くないよ!」 「助かったし楽しかったからさ」 だから気にしないで。そう言って笑った安元くんにおろおろと困っていれば、それよりも、と空に指をさした安元くんが上を向いた。 「お天気雨になったよ」 「あ、本当だ」 「ってことはもうすぐ止むね」 不思議…。そう小さく呟けば心の中で何かがギューっと締め付けられた気がして私は安元くんの横顔を少しだけ盗み見た。安元くんが言った通り雨が止んで行くのが不思議なのか、お天気雨が不思議なのか。どっちだか分からないけど自然と笑みがこぼれてしまって、狐の嫁入りだね、なんてついついそんな言葉を呟けば安元くんがクスクスっと笑った。 「それ俺も思ってた」 「あはは、偶然だね」 そうやってクスクス笑って気にしてないそぶりをするけどそんな偶然すら今は少し照れくさくなったりして私はついつい足元ばかり見てしまう。 「じゃあ俺行くね」 「あ、その前にタクシー代!」 「あ、覚えてた?」 困ったなぁと苦笑いをする安元くんが少し悩んでから私をチラリと見ると、それじゃあさ、と口を開いた。 「明後日、飯食いに行かない?」 「え、?」 「明後日、空いてる?」 「そ、それっていつもの面子でってこと?」 「ううん、違う」 「違う…?」 「2人で、どうかな?」 「、!」 いつの間にか止んだ雨のせいで思わず聞こえてしまいそうなほどうるさい鼓動が体全体に響き渡る。うん、行く。そんな単純な返事しか出来ない私に、優しく微笑んだ安元くんの後ろから真っ赤な太陽がチラリと顔を出した。 晴れ時々雨のち恋 (雨が嫌いなんてやっぱり嘘、ね) 20120715 あけこ様/安元さん Thank you for the request!! |