風呂上がりのボヤっとする視界に眼鏡をかければどこかクラクラしたような感覚に襲われる。これは大抵いつものことであるが風呂場からリビングのドアを開けた所で見えた髪も乾かさずぼんやりとしている彼女はいつものことではない。俺が戻ってきたのにも気付かずただひたすらぼんやりする#name#にお疲れだね、と声をかければ予想以上の驚きぶりに俺もびくりと肩を揺らす。






「ごめん、驚かせて」

「あ、いや、大丈夫」

「体調でも悪い?」

「えーなんで?」

「だってぼんやりしてるから…」






俺がそう言えば、そう?なんておどけてみせてふぅと短く息を吐いた。いつもならすぐに乾かす長い髪が今日は俺が風呂に入る前から何も変わっなくて、隣に腰掛けたまま思わずかぶせたタオルでゴシゴシと頭を拭けば恥かしそうな声が聞こえる。





「わー驚いたー」

「風邪引くぞ」

「えー大丈夫だよー」

「最近仕事大変なの?」

「んーそんなではないけど今は新人研修の時期だからねー」






と、あははっと少し無理して笑った#name#は、疲れちゃうからもう良いよーと頭を拭く俺の手を取るとお茶でも淹れると席を立とうとする。そんなの良い。思わずそう言って引っ張ってしまった手に#name#はどこか不満そうな顔で、立った拍子に微かに香ったシャンプーの香りに一瞬気を取られそうになる。






「でもお風呂上がりはなんか飲まないと体によくないよ」

「そんなの今は良いから」

「え、でも、」

「#name#、おいで」






少し強引な言葉かもしれない。手を引く力が強いかもしれない。でもここで離してしまったら#name#は何かに押し潰されてしまうんじゃないかといつもより小さく見える身体にそんな不安すら抱く。ほら、#name#。少し優しい声色で呟いて手を引けば恥ずかしげな表情で隣に座り直した#name#は俺を見て小さく笑う。






「何だよ横に座るのかよ」

「え、あとどこに座るの?」

「膝」

「や、やだよっ、膝の上なんて!」

「良いじゃん最近ご無沙汰なんだし」

「最近太ったから絶対イヤ」

「何言ってんだか」







わしゃわしゃと素手で彼女の頭を撫でればさっきよりも香るシャンプーについ愛おしさを感じてしまって、もしや自分はにやけたりしていないだろうか、なんて不安になる。






「あーなんか眠くなる」

「何でだよ」

「浩史の声はダメなの、眠くなって」






そう言って俯きながら俺の肩に寄りかかってきた#name#に俺も少しだけ体重をかけた。甘えべたな#name#の最大限の甘え。そう感じるだけで心臓の奥の方でフツフツと湧き上がる気持ちは何なのだろう。






「身体平気?」

「今平気になった」

「なんだそりゃ」

「なんだじゃないもん」







どこか眠た気な声の#name#をよしよしと優しく撫でて俺の肩に寄りかかる顔をチラリと覗き込めば少し照れ臭そうな顔が見える。







「新人研修ってそんなに大変なんだ」

「んー分かんないけど」

「どんな感じなの?」





ついそんなことを聞いてしまった俺にんーと少し悩んだ#name#がゆったりとした口調で話し出す。一緒に外回りしたり一緒に会議資料作ったり一緒に謝ったりもするよ。そんな話を聞いて俺は特に考えもなくへぇーと相槌を打つ。






「結構一緒に居そうだね」

「そうだね、いつでも一緒かも」








いつでも一緒、か。仕事している間中同じ目標に向かって一緒に過ごす。もしかしたら同じ家に住んでいる俺よりも一緒に居るかもしれない。そう思うと浮かぶ疑問が1つ。それ、男?つい口からもれた言葉にうんとすんなりと頷いた#name#に俺は少し目をそらした。思わず不意に出たさっきよりも素っ気ないへぇーという相槌にキョトンとした顔の#name#が俺を見る。





「あ、」

「何だよ…?」

「……やきもち?」

「っ、」






ばれないと思っていた矢先不意をついたように言われたその一言に俺は思わずびくりと肩を揺らした。何だこの動揺。チラリと隣を見れば肩に寄りかかったまま上目で俺を見る#name#と目が合って俺は慌てて目を逸らす。






「当たりだ」

「うっせぇ…」






クスクスっとどこか悪戯っ子のように笑った#name#がさっきよりも深く俺に寄りかかり俺の手を握る。普段じゃあり得ないこの行動に余計に早まる俺の鼓動を当の#name#は知ってか知らずか。消えてしまいそうな程耳元で小さく囁かれた言葉に俺の視界がクラリと歪んだ。







君の隣、耳元に愛
(あ、ダメだ)
(また君を好きになる)


20130921
七星様 神谷さん/大人な雰囲気
Thank you for therequest!!
1997