(※学パロ)

「ちょっとは働けバカ!」

「女の子がんな言葉使うな」

「うっさいアホ!」

「ったく何んだよ」





ボリボリと頭を掻きながら気だるそうに私を見上げた。反省の色なし。あーイライラ。もともとこんな埃まみれのドロドロになったのはのん気にジャンプなんか読んでるこの男のせい。




「ジャンプやめれ!働けこんちくしょう!」

「今、良いところだから無理」

「私が無理だっての!」




そう言って力いっぱいジャンプを取り上げれば、おいー!と不満そうに裕行が叫ぶ。日は傾いて吹奏楽部の演奏がより一層盛り上がってきたところ。終わる見込みもないこの掃除にため息が漏れる。



もともとこうなったのも全部、裕行が体育委員のボール当番を忘れたせいだ。私は担任と話しがあるから行けないと言ったはずなのにそれをこの男ときたら…。そのおかげで先生には叱られて挙句一緒に体育倉庫の掃除をさせられる始末。本当に最っ低だ。今日は月9
の再放送を楽しみにしてたのに…。あーキムタク。




「そうカリカリすんなよ」

「裕行のせいだから。私のキムタクを返せっ!」

「いや、キムタクお前のじゃねーしお前も悪りぃ」

「悪くないから!言ったから!」

「えー聞いてねーよ」

「聞いとけ!」




ちょっと本当になんなのこの子。予想以上に汚れている倉庫は片付けても片付けても終わりが見えない。先生には怒られるし掃除もさせられるし今日はなんつー厄日だ。




「あーあ。俺のジャンプー」

「うっさい!マガジンでも読んどけ!」

「あぁ、いいねそれ」




は?と思った時には既に遅い。鞄からごそごそとマガジンを取り出した裕行はさっきと同じ姿勢で悠々とページを開いた。




「あんたの鞄何っ?」

「すげーだろ」

「な、何入ってんのその鞄」

「ジャンプとマガジンと弁当。弁当の代わりにたまにサンデー入ってる時もある」

「サンデー…」




サンデーとはきっとアイスではないだろう。というか少年雑誌どんだけ。というか教科書を入れろ教科書を。こいつ本当に大丈夫なのか。


「ねぇ、裕行」

「………」

「ちょっと!おい!」

「………」




はい、無視きました。完全に何か違う世界に入ってしまった裕行は私の言葉も聞きもせず完全にマガジンに集中した。分かったもう知らん。思わずそうボソリと呟いて私は掃除を再開させた。足元に転がる野球ボール。倒れたコーン。あちこちにに散らばった石灰の袋。……石灰の袋だと?思いっきり顔が引きつった。とりあえず1つと持ち上げれば、何これ重いっ!やっとの思いで運んだ袋を見ればなんとまぁ20キロの文字。そりゃ重たいはずだ。思わず突っ立っていれば横から積み重ねられた石灰の袋に私は驚いて横を見た。




「あ、」

「お前バカか?」

「はっ?」

「言えば良いだろ」




呆れたように私を見た裕行はもう一度石灰の袋を軽々持ち上げると次々に重ね始める。




「お前20キロ持つなんてすげーな」

「べ、別に余裕だし…!」

「嘘付け。重かったくせに」

「痛っ!」




おでこに痛みを感じればピチッと軽いでこぴんを食らっていた。しかも「腕震えてたぜ」なんて言ってきて、何だか少し癪に障る。




「もういいよ、私やるから」

「いいよっての、ジャンプでも読んでろ」

「いや興味ないし!」




1人で運ぶ裕行を見て思わずむきになって横から手を伸ばす。だってずるいじゃん。なんかさ、なんだよこのもやもや。裕行から1つ石灰を奪い取って持ち上げる。私だってこんなん出来るわ!体育委員なめんな。そんな気持ちで石灰をドサッと積み上げる。




「どうよ!」

「………」




やってやったと得意気に裕行を見れば「怪力女」とでもからかわれると思ったのに、予想に反して口をへの字に曲げて私を見つめた。




「お前分かってねーのな」

「な、何がよ」

「少しは良いとこ作らせろよ」

「は…?」

「格好つけたいと思うだろ、」




「なまえの前なんだから」





その言葉に思わず情けない言葉が出れば、目の前の裕行の顔が赤くなるのが分かった。ちょ、ちょっと待って…!心の中で零れ出た言葉に私自身の顔も熱くなるのが分かる。な、何言ってんだか!と必死に気にしないふりをしてそっぽを向けば裕行の声が耳に届く。





「ボール当番もなまえ居なきゃ行く意味ないしな」

「い、意味って仕事でしょ!」

「だいたい体育委員だってなまえとだからやってるみてーなもんだし」

「、!」

「もしなまえが美化委員なら俺も美化委員やってる」




これの意味分かる?と私の顔を覗き込んだ裕行が真っ直ぐ私の目を見るもんだからまるで金縛りにでもかかったみたいに少しも動けなくなる。




「つまりはさ、」




裕行がそう口を開いたので私は少し下を向いた。だけど次の瞬間、それは裕行の声ではなく、むしろ言葉ではない何かが頭の上に降ってきた。





『痛って!』

「何2人でサボってんだ!」

「原ティー…」

「タイミング悪りぃ…」

「なーにが原ティーだ!」



原先生だろうが!と叫んだのは体育委員会担当の原ティーこと原先生。頭に降ってきたのはどうやら拳骨らしい。痛てーとしか出てこない言葉にため息を吐きながら、辺り一面を指さして原ティーを睨んだ。




「ちゃんと見てよ原ティー、こんな綺麗ですよ」

「そうそう原先生。俺等頑張りました」






本当かー?と半信半疑の原ティーは倉庫の中をぐるり見渡すとふーんと声をもらして私達を見た。





「まぁ良しとするか」

「よっしゃー!」

「やっと帰れる…」




次はサボんなよーと原ティーに適当に別れを告げて私達は汚れた制服を叩きながら倉庫を後にする。長かった倉庫生活よさらば。思わずふぅと息を吐いてから、そう言えば裕行あんたっ!と調子良いことばかり言っていた裕行を怒ろうと振り向けば、あからさまに不機嫌な顔をした裕行が私を見た。





「何、その不機嫌な顔」

「不機嫌になるのも当然だろ」

「何が当然なの?」

「お前さっきの話忘れた?」

「あっ…」



その瞬間ふとさっきの会話が思い出される。あ、えっと。ついついどもる私に向き合った裕行がふぅと小さく息を吐いた。




「お前、顔赤ぇよ」

「う、うっさいな!そ、そんなこと…!」

「まぁ良いけど。それよりさなまえ」

「な、何…?」

「続き、いい?」








恋が始まる前の
(ちょっとした思い出)

1997