「ちょっと会わねぇ?」なんてよっちんからメールがきたら断る理由なんてない。だけど今はただ後悔。会わなきゃ良かったなんてそう思ったのは今日が始めてだ。










「俺付き合うことになった」

「んー?誰とー?」

「いや、あいつと」

「あいつ?あいつってヤス?」

「バカか!ヤスじゃなくてその…」

「分かってるよ焦んなよ」







あははっと笑って背中を叩けばよっちんは恥ずかしげに頭をかいた。照れちゃってバカみたい。最初から分かってるよ。



私とよっちんは同じ事務所の仕事仲間。知らないうちに仲良くなって、そのうち一緒にご飯も食べたりして、下らない冗談も真面目な話も色んな話をするようになった。



外はだんだん日が傾き始めたきた夕方4時過ぎ。缶コーヒー片手にスタジオ1階のエントランス。このスタジオでは定番の私達の語り場だ。







「なまえのお陰だ」

「えー私のー?」

「おう。本当にサンキューな」

「何照れちゃって!可愛いー」

「う、うっせーよアホ!」







そう言ってふいっと顔を背けてよっちんは口を尖らせた。照れたり恥ずかしがったりすると見せるよっちんお決まりの顔。ずっと好きだった女の子に告白をしてOKをもらったらしい。律儀に礼を言うよっちんはさすが男前と言われるだけある。







「とりあえず次はなまえの番だろ」

「えー私?」

「いるんだろ、好きな奴」

「んー…実はもう振られたから」

「ハァっ?」







よっちんの驚いた声がエントランスに響き渡り通り過ぎる人達がこちらを向いた。全く声優なんだから少しは考えろ。やべぇと口を押さえながらよっちんはひそひそと私に話しかけた。







「おま、マジで言ってんの?」

「うんマジマジー」

「だって俺聞いてねーよ」

「だって言ってないもん」

「マジかよ…」

「あれ、もしかして寂しい?」

「いや、寂しいってか…」






「なんか悪りぃ」と謝ったよっちんにニヤリと笑ってまた背中を叩いた。






「気にすんなよ!変わりに私はよっちんが上手くいくように応援するから!」

「おう…」







そう言えば少し切なそうに、でも嬉しそうによっちんは笑った。本当に幸せなんだね。グイッとコーヒーを飲み干して空になった缶をぼんやり眺めた。







「なまえがいれば心強いわ」

「まぁ当然だよねー」

「いきなり調子乗ったな」







からかうように笑ったよっちんに私もゆっくり微笑んで窓の外に目を向けた。私上手く笑えてたかな?夕焼けが眩しくエントランスを照らし出した。思わず目を細めたら目頭が熱くなって胸の辺りがズキズキと痛み出した。バカだな私って。







「そう言えばさ、この辺に新しく出来たお店」

「え?」

「チラシもらったから2人で行って着なよ!」

「マジで、いいの?」

「あったり前じゃん!いい感じだから女子はいちころだね」

「お前言い方」

「いきなり手は出すなよー」

「うっせぇするか!」







今日何度目かの恥ずかしげな顔をして残りの缶コーヒーを一気に飲み干しよっちんは席を立った。







「誘っといてなんだけど実はこれから会うんだよ」

「へぇーやったじゃん」

「だからそろそろ行く」

「うん、分かった」

「なまえも帰るだろ?駅まで行こうぜ」

「うん、と言いたいところだけど実はまだ仕事あるんだ」

「あ、そっか…残念だな」

「何言ってんだかバカか!」

「まぁ…今日は、サンキューな」







「早よ行け」とよっちんの手から缶を受け取って私も立ち上がった。「暗いから気を付けろよ」と笑ったよっちんに小さく頷き去って行く背中に手を振った。残念とかさ、嘘でも言うなよ。とうとう見えなくなった背中に振っていた手をゆっくり下ろした。崩れ落ちるように椅子に座れば机の上の2つの空き缶が夕日に照らされ寄り添うように長く陰を延ばした。空き缶さえも幸せそうに見えるのは私が情けないからか…。思わず指ではじいた空き缶は呆気なく机から落っこちた。





それは無情にも
(次はもっと上手く笑うよ)



20110421
1997