スタジオのカフェ。いつものように収録の合間に何気なく立ち寄れば今の今まで一緒に収録していた後ろ姿が見えた。 「なまえ、お疲れ」 「あ、よっちん」 俺の声に振り向いたなまえがお疲れと笑う。「一緒いいか?」と軽く尋ね頷いたのを見て俺は正面のイスに腰掛けた。イスに座ると同時に一口コーヒーを飲めば何気なくなまえの手元にふと目がいった。 「何の本読んでんの?」 「え、あぁこれ?」 楽しそうに笑いながらブックカバーを外すとじゃーんという効果音とともに本の題名が向けられる。 「花、言葉…?」 「そう花言葉」 「お前そういうの好きなの?」 「結構好き、でも今回は友達に花を贈ろうと思って」 「へぇー」 「それで花言葉も添えようかなってね」 「なるほどな」 友達思いでしょと笑うなまえにまた意外な物を見せてくれやがったな、と感心してしまう。花言葉なんて今まであまり触れる機会もなかったし言われてみたらまぁ気になるもんだ。「よっちんの誕生花はー」とそんな俺の思考を読んだようにあるページを開いて俺に見せた。 「黄色のパンジー」 「あーなんとなく分かるわ」 「花言葉はつつましい幸せ」 「お、おう」 「良い言葉だね」 「なんか微妙に恥ずかしいな」 「なんでよー」 ケラケラ笑いながら俺を見てなまえはまたページを捲る。何だかその姿がやけに可愛くてこいつを花に例えると…なんて自分でも気持ち悪いことをいつの間にか考えていた。ちょ、マジで気持ち悪りぃ…。 「よっちんの好きな花って何?」 「俺?いや花とかあんま分かんねーや」 「何でもいいんだよ?」 「あー…チューリップとか?」 「チューリップかー」 可愛い花だよねーとニコニコしながらページを捲り、俺のほうへと本を向けた。あまり興味なかったがいざ聞いてみると意外と興味が沸くもんで少し食い気味に見たページには真っ赤なチューリップの写真と小さく書かれた花言葉。それを頭で繰り返して少し顔が熱くなる。 「愛の告白だって」 「あ、あぁ…」 「ロマンチックだね」 「ちょっとびびったわ」 チューリップの意外過ぎる情熱的な花言葉に俺の心臓は無駄にドキドキする。幼稚園児でも描けるチューリップがまさか。あ、愛の告白って…。 「プレゼントされたら嬉しいけどね」 「意味知らないで渡したらやべーな」 「うーん、ちょっとね」 おかしそうに笑ったなまえを見て、そう言えばこいつの好きな花は何なのか少し気になった。 「なまえは何の花が好きなんだよ」 「え、私?」 「そう、なまえ」 「私はマンジュシャゲが好きかな」 「マンジュシャゲ?」 「彼岸花のこと」 「あーあの赤い」 俺がそう言えばそうそうとなまえは頷いて笑う。 「でも彼岸の花だろ?不吉なんじゃね?」 「そうだね、おばあちゃんとかは嫌いかも」 「確かにな」 「でも、すっごくきれいなんだよ」 「へぇー」 マンジュシャゲ。頭の中で繰り返して真っ赤な花を想像する。真っ直ぐな茎も赤くてきれいな花もなんとなくなまえに似合う気がする…って俺!何考えてんだアホか!またもや柄にもないことを考えてしまった自分にさすがに寒気がしてコーヒーを一気に飲み干した。 「そ、それ贈るのか?」 「いや、贈らないかなー」 「まぁそっか」 「あーでも」 「、?」 「よっちんには贈ろっかな」 「は、?」 間抜けな声を出したと同時になまえが本を閉じた。ちょい待てどういう意味だ。頭で整理している間になまえは鞄を手に持ちいそいそと席を立った。 「じゃあ私、行くね」 「え、マジで」 「次の仕事も頑張って」 「いや、あの」 「じゃあまた」 「あ、おい!」 「、?」 「なんで、俺にはなんだよ…」 歩き出そうとしたなまえを俺は思わず引き止めた。どういう意味かそれが知りたい。真っ直ぐなまえを見つめ尋ねれば少しだけ恥ずかしそうに微笑んでなまえも真っ直ぐ俺を見つめた。 「答えは26ページ」 えっ、と俺が本日2度目の間抜けな声を出した時にはじゃあとなまえは逃げるように去って行った。残されたのは一冊の本と俺。一瞬呆気に取られながらゆっくりと本に手を伸ばした。 「26ページ、だったよな」 パラパラと1ページずつ捲っていけばあっという間に26ページ目がやってきた。一番に目に付く写真は赤い花が真っ直ぐ上に向かって咲いている。本当だ、すごくきれいだ。そのまま写真の下へとゆっくりと視線を移せば控え目に書かれた花言葉に、俺の顔が赤く染まった。 マンジュシャゲ 想うはあなた一人 花束に想いを込めて (だったら俺は、) (チューリップの花束を君に贈るよ) 20110618 |