駅のホームに着いてから切っりっぱなしだった携帯の電源を入れればそれと同時に携帯が震えた。時間を見ればちょうど5分前に届いたメールで、そこには『仕事終わった?』という短文がぽつんと画面に映っている。絵文字も何もないメールが何だか可笑しくて『今終わったよ』と私も短文でメールを返す。パタリと携帯を閉じて電車に乗れば時刻は午後4時30分。傾きかけた太陽がキラキラと西の空に輝いている。後1つで最寄り駅という所でまた携帯が震えた。



『改札にいる』



そんな文章に私は少し驚いた。確か今日は休みだったはずだからわざわざ着てくれるということか。『分かった』と嬉しい気持ちとは反対にまた短い1文を送って私は携帯を閉じる。たった2分の時間すら電車の中で揺られているのは惜しいぐらいで、髪を少し整えたりストールを巻き直してみたり。ついついソワソワしてしまう。


改札を出てから辺りをキョロキョロ見渡してて。階段の下。あぁ居た居た。飛び付きたい衝動を抑えて裕行に駆け寄れば、よぉと手を上げる。






「意外と早かったな」

「そう?」






本当はちょっと走ったんだ、とか恥ずかしくて言えないけど裕行の顔を見たら少しだけ鼻が赤くてこれは結構待ったのかな?と思わせる。






「何笑ってんだよ」

「別にー」






そう言ってごまかすように裕行の腕に手を回せば照れ臭そうに上着のポケットに手を突っ込みゆっくり歩き始める。家で何してたのーとか何時まで寝れたのーとかそんな話をしながら、晩ご飯は何がいい?とたずねれば相も変わらずカレーの一言で内心やっぱりなと。






「じゃあ買い物しなきゃ」

「えーマジでー」

「だったらレトルトにする?」

「いや、それはやだ」






名前のカレーが良い。と珍しく照れることもなく流れるように言うもんだからなんだか嬉しい。お世辞でも何でもなく本当にそう思ってくれてるんだなって。ちょっと自惚れし過ぎかな?






「ニンジンと玉ねぎだけね」

「肉は?」

「確か豚があったはず」

「へぇー」

「あと何か買う物あったっけ?」

「んー…ねぇんじゃね?」





そうやってちょっとごまかすようにニカッと笑った裕行に、適当、と意地悪く言えばギュッと鼻を摘まれる。






「じゃあケーキな」

「ケーキ?」

「俺イチゴの食いてーな」

「んーじゃあ私チョコにする」






そう言った瞬間摘まれていた鼻がパッと離され、んぶっと変な声が出る。鼻赤いな、とからかうように笑う裕行にちょっと悔しくなりながらも腕を掴んでいた手をポケットの中へ突っ込めばその中でコツリと裕行の手に当たる。少し冷めたい手をゆっくりと裕行の手に絡めれば自然に握り返してくれて私の手はすぐに温まっていく。こんな些細なことが幸せ過ぎて柄にもなく甘えてみたくなったりして普段は出ないような言葉もサラリと出てしまう。







「好きだー裕行」

「何だよいきなり」






そんな突然の言葉に呆れるように裕行は私を見て笑う。だってすごく幸せで今のこの気持ちを表すにはきっとこれしかないって思ったの。






「なんか言いたくなった」

「あっそ」

「裕行は私のことどう思う?」

「なまえと同じ」

「ちゃんと言ってよー」

「んーまぁ、家帰ったらな」






そう言って恥ずかしそうにそっぽを向いた裕行の顔が夕日に照らされて微かに赤く見える。約束ね?と私が少し念を押せばプッと噴出した裕行が私の顔を見てコクコクと頷く。







「お前が照れるぐらい言ってやるよ」

「あら、それは楽しみ」

「あらそうですか」







どこか余裕のある裕行に私はクスクス笑ってポケットの中で繋がれた手を引っ張った。おい、どうした?なんて驚いている裕行よりも一歩先を歩いてチラリと振り返れば不思議そうな顔が私を見つめている。







「早く帰りたいなって思って」

「はぁー?」

「言ってくれるんでしょ?好きって」

「っ!」

「だったら早く帰ろうよ」








悔しそうに笑う裕行にそう言ってグッと繋いだ手を引っ張れば少しだけ嫌そうにその手が後ろに下がる。そんなことしたって無駄だもんね。

さてさて。帰ったら裕行が照れるまで好きと言ってもらいましょうか。







お家に帰ろう


(チクショウそうきたかー)
(あー楽しみー)

20120411

1997