先生に言われた通り机を挟んだ反対側のソファーへ座れば先生が机の上を少しだけ整える。汚くてごめんね、なんて気を遣う先生にいえいえと小さく返して私は先生を見た。少し寝ぐせのついた髪の毛と少し皴になった白衣。目が合うと微笑む先生に少しだけ緊張するのが分かる。


「お休みのところ急にすみませんでした」

「いや、俺が悪いんだー」

「あ、いえ、とんでもないです」

「本当は寝てちゃダメなんだけどね」

「あ、でもお疲れでしょうし、別に…」

「寝てたの、内緒ね」

「あ、もちろん、です」


えへへっと無邪気に笑う先生に片言と返事をする私は何とも情けない。普段話したこともない先生とこうして2人きりなのは実に不思議で、更には先生の口から出てくる心地よい声と#name1#さんなら安心だなぁと間延びした言葉に少し気が抜ける。


「名前、ご存じなの驚きました」

「えーそりゃ分かるよー」

「そうなんですか」

「授業持ってるし、#name1#さん存在感あるよ」

「存在感、ですか…?」

「身長も高いしー運動神経も良いよねー」


去年の体育祭活躍してたよねーと懐かしむように腕を組む先生に何となく相槌を打っていれば、ニコリと笑った先生が少しだけ私の方へ体を寄せ私を見た。


「あと俺の授業で寝てるね」

「あ、」


今度はどこか悪戯っ子のように笑った先生に思わず小さく声が漏れた。


「お互い様だったね」

「あ、いや、すみません」

「あはは、冗談だよー」

「先生の声が何だか、心地良くて」

「あ、なんかそれ嬉しいなー」


クスクスと笑って私を見る先生はとても優しくて、つい少しだけつられて笑ってしまいそうになる。ふわふわと笑うたびに揺れる寝ぐせと少しだけ先生にかかる西日と。今まで感じた事のない何とも不思議な気持ちに少し心が浮かれている気がする。


「あの、小野先生」

「ん?何?」


不意に思い出した先生の名前が私の口から零れる。始めるには遅いかもしれないけど。もしかしたらダメかもしれないけど。きっと気持ちが動いたこの時に、私は伝えてみないといけない気がする。










1997