おはなし


公園で二人を見掛けてから4日が過ぎた頃、雪がダブルデートをしてみたいと言い出した。
突然そんな事を言い出すものだからトレンチを持っている手が震えて、また店長に怒られる事になった。いやダブルデートは別にいいのよ。でもダブルデートってあれでしょ?お互いに相手が居ないと成立しないリア充呑みに許された恐ろしいデート。
と言うか好きな人がいたの!?もしかしなくても恋人!?
驚き過ぎたあたしは働いている事も忘れて雪の肩をぐらぐらと大きく揺らしてしまった。とても言いづらそうに、そして恥ずかしそうになんとも可愛らしく「うん」と頷く雪を見て硬直したのは言うまでもない。

何処の誰だ、こんな綺麗で可愛くて賢くてとにかく上の上のずっとはるか上と言っても言い過ぎではない程に素敵な女の子を射止めた男は。
許せん!!!

なんて。怒りをふつふつと心の奥で育てつつ、その日を迎えた。

相も変わらずハイネックを完璧に我が物にした素敵な恋人様の沖矢さんと物凄く美人さんな友達の雪が待ち合わせ場所へ先に来て、そして待っていてくれていた。
く…、! 二人ともめちゃめちゃ眩しい。太陽よりきらきらしてる。
そんな沖矢さんと雪を周りもちらちらと見ていた。完全に見惚れているのだ。こんな素敵な二人と一緒に居てもいいんだろうかと未だに思ってしまうが勇気と気合いを出し、二人の傍に駆け寄る。

「二人とも早いねえ、お待たせしました!」
「あ、ううん。さっき来た所だよ」
「私も先程来たばかりなので、栗花落さんはお気になさらず」

完璧な気遣いだ。ほう、と自分の頬に手を添えて二人に見惚れたい気持ちをぐぐっと必死に堪え更に自慢したい気持ちも全力で心に留めて、辺りを見渡す。おや?雪のお相手様は未だ来ていないのだろうか?あたしの視線を察してか、もう少ししたら来るよ、と雪が答えてくれた。
未だ見ぬお相手様よ、引く手数多な雪を先に来させていいのか。今回は沖矢さんが居たから誰にも声を掛けられなかったが一人だったらとんでもない事になるぞ、いいのか本当に。
心の中でぶつぶつと呟いていると、雪が腕を上げて「こっちだよー!」と嬉しそうな笑顔を浮かばせたからそれに続く様に雪が手を振る先を見て、

また硬直してしまった。

「お待たせしてすみません」

そう言って雪に笑みを浮かばせた男のイケメン度につい真顔になってしまったのは言うまでもない。金髪に褐色肌。背も沖矢さん並に高い。何処のホストだよと言ってしまいたい気持ちを一旦落ち着かせた。と言うか、あの、増えたイケメンに周囲の目が更に痛いんだが。
流石、これだけの容姿諸々を備えた雪だ。類は友を呼ぶってこんな所にも適応されるのか。

居づらくて適わんよ、あたしは。

「今お付き合いしてる、れ、零さん…」

照れるなおいいいい!!!彼氏様もなに照れた雪の事を見て目を細めてんだよ!!!とツッコミたい気持ちをも押さえ「…お、お似合いだねえ」と沖矢さんを見上げると、沖矢さんまでもがじいいいっと雪を凝視していた。
いやお前かーーい!!!
正直この三人からめちゃめちゃ距離を取りたくなった。顔が良過ぎるのも考え物である。ほら見てよ。周りの人も一人だけ毛色の違い過ぎる汚ねえ野良猫でも見るかの様な視線を送ってくるよ。

ヒソヒソ声が聞こえんてんぞ。おい。

「…初めまして。降谷です。雪さんから時折栗花落さんの事はお聞きしていました。どうぞよろしくお願いします(にこっ)」
「……、……あ、ハイ、ヨロシクデス」

人当たりの良い表情で此方に手を差し出すからつい癖で手を添えてしまった。瞬間、握手した彼氏さんがぐぐぐっと手に物凄く力を込めて来たから、あたしも負けじと今自分に出せるだけの力を込めておいた。よろしくする気が一切感じられないんだが。
言葉と行動を一致させて欲しい。本当に。
軽い(?)自己紹介をした後、何処に行くかは決まっているのかと言う話になり大きく頷いた雪は「ここ!」とスマホで一枚の写真を見せてくれた。

【恋人と行きたいスポットNo2!】

いや、いやいやいや、No1は何処に行ったの…!?

多分あたしと沖矢さんと降谷さんのツッコミが一致した瞬間だった。後にも先にも自分とイケメン二人のツッコミが一致したのは、この時だけだと思う。

大切な友達(小毬)、大切な人(沖矢)、大切な恋人(降谷)が言うものだからと断る選択は皆無、詳しい行先をスマホで調べて待ち合わせていた場所から歩き出す。雪が行きたい場所はここからそう遠くはなく、そしてデートスポット故に人や車が多いだろうと電車で行く事になった。

さも当たり前の様に雪と恋人繋ぎをし何処か嬉しそうに口許を緩ませる降谷さんの事を少し殴りたくなってしまったのは、言うまでない。

「(くそう、あたしだって!雪と恋人繋ぎした事ないのに!!)」

じとーーー、と二人、と言うよりも降谷さん単体を睨んでいると沖矢さんが咳払いをしたのが聞こえて、沖矢さんの方を向いた。
そうだよね、大切な人が他の奴と恋人繋ぎして微笑ましそうにしていれば悔しくなるよね。解る。解りますよその気持ち。と言う強い意志を持って今度は沖矢さんを真っ直ぐ見上げていると、そっと手が差し出された。

…………えええ!?に、握る…!?もしかしてこれは手を握ってくれようとしている…!!?

一瞬にして大パニックである。驚き過ぎて中々手を握り返せないでいると「すみません嫌でしたか…」と在らぬ誤解をされたから、即座に手を重ねたよね。とんでもない。寧ろ本望です。
初めて手を繋いでくれた事が本当に嬉しくて、にやにやと表情が締まりなく緩んでしまう。沖矢さんの手はとても大きくて、余計にドキドキするから困った。
以前男の子と手を繋ぐ機会もあったけど沖矢さんには敵わない。

多分、手を繋ぐ降谷さんをあまりにも凝視していたからあたしも手を繋ぎたいのだと思ってそうしてくれたのかもしれない。ナイスです、降谷さん!雪と恋人繋ぎしてくれて本当にありがとう!

と一瞬にして掌を返し、心の中で物凄く感謝しておいた。

top