おはなし


目的地に着くとやはり行きたいデートスポットNo2、恋人同士で来ている人ばかりだった。殆どが社会人や大学生カップルだが、中学生くらいの初々しいカップルもいて。中にはお子さん連れの家族で来ている人も。

「(なんと言うリア充スポット…)」
「小毬ちゃん!見て見て、あそこ売店があるよ、何かお揃いの物買わない?」
「!うんっ、」
「ええ?僕とお揃いの物は買ってくれないんですか?寂しいなあ」
「っ!ひ、一つくらいなら買ってもいいよ!?」

せっかく女子特有のお揃いの可愛い物を買って仲良しうふふ!をしようとしていた所に降谷さんが横槍を入れて来て、嬉しい気持ちが一気に半減した。楽しみを奪われたんだが?お?ヤキモチか。男のヤキモチはちょっとアレだぞ。沖矢さんは勿論全然アリ寄りのアリだけど。

お店の中は向こう程ではないにしても結構な人混みで、ははーん?と唇の端を吊り上げた。
歩きやすい様に雪の前を歩く降谷さんをこの人混みに乗じて斜め後ろから押しやってやろうと掌を伸ばす。が、買い物を終え出口に向けて歩いてくる人をひょいっと軽々避け、代わりにあたしはその人とぶつかる羽目になった。
売り物を見て回る中で数度押しやろうとしてみたが全て違う避け方をされて全敗に終わった、とても悔しい。
あまりの悔しさにもう思いっ切り真後ろから押してやろうとした際は、もう少しで背を押せると確信した瞬間に落し物があると下に屈まれ、華麗に避けられてしまい、綺麗積み上げられていた品物にそのままあたしが突っ込んだ。
お店の人に怒られ、雪に心配され、更には沖矢さんと周りの人から冷たい視線を受けたのは言うまでもない。

握手の時と二人だけのお揃いを邪魔された恨みを晴らそうとしていたのに…!くっそ!

「お昼どうしよっか?みんなはお腹空いてる?」
「え!?お昼!?食べたい!」
「そうですねせっかくですし何か食べましょうか」
「沖矢さんは食べたい物ありますか?あたし買ってきます!」
「ふむ…では栗花落さんと同じものを」

同じものきた…!恋人ド定番のひとつ!
ぐっと両腕の拳を上に向けて伸ばしたい程に上がりまくったテンションを本気で押さえ、各々の苦手な食べ物を尋ねてみる。なんとも不揃い過ぎる食の好みに一瞬真顔になってしまった。色々選べる良さげなお店がここに来るまでに、ひとつだけあったなそう言えば。
よし、そこに行こう。なんて歩き出そうとしたあたしは思わず立ち止まり後ろを振り向いた。この行動に首を傾けた後方の三人。
言いたい事はただひとつ。

あれ、あたし?あたしだけ行くの?

である。全く動く気配の見られない三人に驚愕したよね。いや、沖矢さんはいい。自分で買ってきますと言ったのだから。雪も勿論いい。でも残る一人は?え、愛する彼女のお昼だよ?せめて一緒に行かないの?
そんな視線を彼に送り続けてみたが、あろう事か降谷さんは「では僕達は席を確保しておきましょうか」と言って歩き出し。それに続いて沖矢さんと雪も歩き出してしまった。

「(え…えええええ)」

またひとつ、降谷さんへの恨みが増えた。

仕方なく、一人で、四人分のお昼を買いにやってきたはいいが。人の多さに呆然とした。
がっつり食べてやろうかとも思ったがこの人の多さではがっつり系のお昼を持って三人の所へ帰るのは少しどころか物凄く難しいかもしれない。誰かにぶつかって地面に落っことす未来しか見えない。うーん、と天井から吊るしている料理表を見上げては、その中から三人が好きそうな物を自分なりに勘で選んでみる。
沖矢さんは甘い物はあまり食べないと言っていたからハンバーガーでもいいだろうか、紙に包まれてるっぽいから手も汚れないし。雪はどうしよう、この中ならパンケーキとかかな、フォークついてるし甘い物好きだし。降谷さんはロシアンたい焼きセットでいいな、うん。席の近くに自動販売機があったから、飲み物はそれでいいだろう。
列に並び自分の番が来て、先程決めた三人のお昼と自分のお昼を注文してお金を払った。その数分後に店員さんが持って帰りやすい様にと大きめの紙袋にお昼を入れて渡してくれた。「お嬢ちゃんえらいね。これおまけであげるよ」なんて言われたが果たしてあたしは一体何歳に見られたのだろうか。

と言うか、同じ食べ物を注文するの忘れてた。

まあ、いいか。おまけ貰えたし。

「(やっとお店から出られたあ、)」

後は三人の所に戻るだけだ。何か任務を果たした様な満足感でいっぱいになっていると、ふと肩に何かが乗せられて後ろに顔を向け、そして見上げた。
そこには二人の男が居て、その片方の手があたしの肩に乗せられているのかと理解。

「かーのじょ、もしかしてこんな所に一人で来たの?」
「良かったら俺らと一緒にどう?」

じいいいいい、と男二人を見詰める。こんな場所に男二人。

派手な髪色とお洒落な服装。大学生、くらい、かな。何もこんなカップルで溢れかえってる場所に男二人で来なくてもいいのに。もしかしてこの人達も彼女さんにパシられているのだろうか。判断が付かずそのまま見詰めながら首を傾けてしまう。でもあたしに一緒にと言ったような、
は…!?あれか、この二人は恋人同士なのかもしれない。その上、あたしが一人っぽいから可哀想で声を掛けてくれた?
なんて優しい。降谷さんとは大違いだ。

じーん、と感動していたがいつまでも三人にお昼を届けずにこうしている訳にも行かず、首を横に振る。

「ありがとう!でもごめんなさい、流石にお二人の邪魔は出来ないのであたしは一緒に行けません!それに、恋人様と友達カップルがお腹を好かせて待っているので、もう行きますね!お二人もデート楽しんで下さいねえっ」

と言って少しばかり走り出した。早くお昼を届けなくては。頭にはそれしかない。後ろからは「はああああああ!!?」なんて叫び声が何故か聞こえてきて気になりはしたが、お腹を空かせているであろう三人を思うと、戻ろうに戻れないからそのまま小走り。
三人の所へ戻れば、雪が笑顔でおかえりと声を掛けてくれたので一瞬にして和んでしまった。

「雪ちゃんはパンケーキで沖矢さんはハンバーガー買ってきました!降谷さんにはたい焼きです!」

ロシアン、は全力で隠した。お礼を言ってくれた三人といただきますをしてから、早速お昼を口に。因みにあたしはチョコレートたっぷりのクレープだ。
はむ、と口に含み、一瞬して口の中へ広がるチョコレートの甘さに頬を押さえた。美味しい。幸せだ。小腹が空いていた事もあり黙々とクレープを食べ続け、最後の一口。

食べ終えてご馳走様、と一言零した時だった。たい焼きを渡されてしまったのだ。
思わずたい焼きをガン見した。

こ、コレハ…。

「すみません、お腹いっぱいになりましたので。栗花落さんは甘い物がお好きなんですね、よければどうぞ」

とにっこり笑いやがった。
そう言えば、たい焼きを食べている降谷さんは一度も様子が変わらなかった様な気が、する。あれ。と言う事は、もしかしなくても、これ、あの、わ、ワサビ…。
なんと言う事だ。ロシアンだった筈なのに外れだけ綺麗に避け切って食べたとでも言うのか。
よりにもよって、それがあたしの所に。

思わず助けを求めて二人を見たが二人とももう食べられないと言って来た。

「…………、い、イタダキマ…ス…」

涙目だったと思う。だって何味か解っていて食べるのだから。
そんなあたしのなんとも言えない心情を察してか、悪魔の様な微笑みで頬杖を付きながら此方を見やる降谷さんと、このたい焼きの恐ろしさを当然解っていない沖矢さんと雪、三人に見守られつつ。

とんでもない辛さと戦いながら渡されたたい焼きを食べ切ったあたしは本当にえらいと思う。(自業自得)

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