おはなし


飲み物を何度も口にしつつも渡されたたい焼きを食べ、向かいで美味しいですか?と物凄く笑顔でやたら尋ねてくる降谷(最早呼び捨て)に心底苛立ちを覚え、それを無視して全部食べ切った後。

沖矢さんと雪とはぐれてしまった。

何処に行ってしまったんだあの二人は。二人一緒に居るのか否かさえ解らず、あたしと降谷は周りを見渡すばかりである。一緒に居てくれたらいいのだが、もし雪一人だとしたら、そう考えると本当は今直ぐにでも探しに行きたい。
が、ここであたしと降谷が更にはぐれると余計にややこしくなってしまう為、二人してスマホを鳴らしてみるが。
肝心の沖矢さんと雪が電話に出る気配は全くないのだ。

困ったなあ…。本当に。

「うーん、どうしよう…」
「はあ…。これだけ人が多いとなると見付けづらいな、流石に。見渡しただけじゃ駄目か…」
「もう!さっきまで恋人繋ぎとかしてた癖に、なんでこう言う時に限ってちゃんと雪の手を握ってないの!」
「…それを言うなら君こそ、あの男の服でも手でも握っておけばよかったじゃないか」
「沖矢さんが手を差し出してくれるのを待ってたんですう、この初な乙女心がわっかんないかなあ!?」
「解りたくもないな、そんな駄犬が主人のお手を待ちに待って尻尾を振っている乙女心?なんて」
「「…………、ふん!」」

二人してそっぽ向いた。そう、沖矢さんと雪に言っていなかっただけで別にこの人と今日会いました初めましてと言う訳ではない。実を言うと数年程前から知っていた。
でもその時は名前さえ知らなかったし顔を合わせる頻度も本当にバラバラで、漸く名前を知ったのはこの人が喫茶店の店員さんとして働いていた時。(ついに警察の偉い方から首を言い渡されたのかと、それはもう本気でバカにしたが即座に頭を叩かれた。)
安室と呼ばれていて、本人もそう言っていた上に女の子からの告白を片っ端から断りまくっていたから、雪の言う恋人がこの人だと思ってもいなかったのだ。

先に名前を聞いていたとして、降谷なんて苗字は勿論知らないから結果はまあ同じである。

「……やめようか、なんかこれ以上言い合ってても、二人見付からないし」
「珍しく同意見だ…」

これ以上こんな無駄な事に体力を消費する訳にはいかない。一旦止めよう。先に折れて大人になったあたし、やっぱりえらい。

はぐれない様にとあまり距離を開けずまん前を歩く降谷。これさっき雪の時に見たなあ。これが沖矢さんならどんなに幸せか。
なにが嬉しくてこの人の真後ろを歩かなければならないんだ。
と言うか全然ときめかないんだけど、腹しか立たないわ。こんなん。後ろから押してやろうかマジで。
なんて思ったが再び喧嘩になっても困るので止めておいた。小毬、あなたは素敵よ。

結果的に少しだけ歩いてみたが、二人を見付ける事は出来なかった。

「……人が憎い…!」
「変わらず電話も繋がらないとなると、やっぱり二人とはぐれた場所に戻るべきか…」
「えええ、庇われてる様な気になって吐きそうだから降谷の後ろもう歩きたくないんだけど」
「これまた同意見だな。さっきから僕も後ろに君が居ると思うと不愉快で堪らないよ」
「「………、」」

ついつい無言で睨み合ってしまう。駄目だどちらも引きたくないタイプだから、どうあっても互いに言い合う一言一言がいちいち気に触ってくる。
それはどうやら降谷も同じ事を思った様で、同時に大きな溜息を零した。

そんな降谷が不意に固まって動かなくなってしまったから、つられて同じ方向に顔を向けてみた。あ、居たわ、二人。人混みから外れた所へ座り込み何かを探している様だった。

何をやっているんだあの二人は。

だからさっき電話しても気付かなかった訳か、と素直に思った。…にしても雪の方は必死そうに探してるなあ。
と言うかあんなに心配していたのにどうして降谷は向かわないのだろう。
不思議に思い視線だけを隣に立つ彼へ向けてみる。その表情はなんとも気難しそうで、でも何処か寂しそうな、それでいて切なそうな悔しそうな、そんな色んな感情が混ざり合った表情をしていて。

あたしは再び二人に視線を戻した。

「…肝心な時に遠慮してるとさ、沖矢さんにいつの間にかかっさらわれちゃうよ」
「……解ってる、行くぞ」
「はいはあい」
「返事は1回」
「はあい」
「真面目に」
「えええもううっざ、い……!?」

二人に駆け寄る降谷の背中を見つめながら頭を押さえて座り込んだ。
あいつ、思い切り頭殴って来た!!
筋肉お化け!!と心の中で叫びつつ遅れてあたしも二人の傍へゆっくり歩いて行った。走ると頭が余計に痛くなるからだ。

頭を抱え半泣き状態のあたしを見た雪は心配してどうしたのと問い掛けてくれたが、降谷に殴られたと言うよりも先に何を言うか見越した降谷が「ああ、先程人にぶつかった拍子にあそこの木へ頭をぶつけたみたいで」と笑顔で言い切ってしまった。
このくそ…!あああ!あたしが痛みに悶えてなかったら先に言い切る自信があったのに!

再び芝生へ顔を向けたのをいい事に思い切りきり降谷の足の甲を踏もうとしたがまた避けられた。本当に悔しい。
彼の反射神経に全く勝てない。

「!あ、あった……!」

直ぐに雪の声が聞こえた。手に持っていたのはネックレス…?

「……せっかく零さんがくれたのに…見付からないかと思った…よかった」

そう言ってネックレスを大事そうに頬へ寄せた雪。おい、降谷。肩震えてんぞ。悶えてんじゃねええええ!!!
と思いはしたが、よっしゃ、今だ。やっと、やっと巡ってきた本当の大チャンス。もう逃してなるものか。ひゅっ、と勢いを付けそのまま降谷の背中を思いっ切り叩いてやった。

「良かったですねえ、降谷さん!あんなに必死に探して貰えるなんて、本当に嬉しい限りですねえ!(にっこおおお)」
「っ……、そう、ですね…!」
「も、もう、小毬ちゃんたら」

とても悔しそうに痛みに耐えつつもそれをぐっと堪えて此方の言葉に返答する彼、その姿を見て今日の諸々の恨みが全て晴れた。綺麗になくなった。

ふは、ざまあみろ!!!!

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