おはなし


今まで平凡に生きていたと思う。

昔から何をしても失敗する事が多くて、何してんだよーとよく友人に笑われたり呆れさせたりしたものだ。親に怒られる事も多ったと思う。
後は、あれ。ニュース番組やSNSで流れてくる様な事件に巻き込まれた事も記憶にはなかったし中高生によくある男女と友人が交差してもつれた地獄の様な修羅場だって当然ない。女の子としてそれは寧ろどうなんだと心配される事は、まあ、あったが。

それでも変わらず関係を続けてくれる友人も結構居て、怒った後の親も次頑張ればいいといつも言ってくれていた。
恵まれて育ったと自分でも思う。

高校を卒業した後は元々週2程でシフトに入れてもらっていたバイト先でお世話になる事に。家からもそう遠くはないし時給も良かったから助かった。だって友人からよく自分のバイト先の時給が低いだの、店員と上手く付き合っていけないだの聞いたりしていたから。そう言う意味でも、恵まれていたらしい。
卒業してもここでお世話になりたいとお願いした際は、店長に物凄く感謝されてちょっと嬉しかった。

何処にでもある普通のカフェ。実際は少しばかり変わっていて。訪れるお客さんは何かしら抱えているそれをぶちまけて帰って行くのだ。店長曰く、あたしが働く前からずっとそうしていた様で、これがまた宣伝にも繋がるらしく今も継続して聞いているとの事。
親しい知り合いよりも全く知らない人やさほど親しくない人の方が意外と話しやすかったりするらしい。
現在一番親しいまである雪と知り合った切っ掛けもここ。出会ったと言うか、再会したと言う方が正しい。雪は最初こそ気付いていなかったが、同じ高校の同級生だったのだ。勿論、話した事はなかったし遠くから見掛ける程度。

凡人と学年…否校内一のモテ女子じゃそりゃ接点なんてものはないに決まってる。彼女からしたらあたしなんてモブの中のモブに等しい。

「いらっしゃいませえ、って、雪だ!今日大学はお休みだったの?」
「ううん、サボって小毬ちゃんに会いに来ちゃった」

えへへと照れた様に笑う雪があまりにも可愛くて、トレンチを持つ手が震えた。乗せていた飲み物が入ったグラスも自然と震える事になりトレンチの上はとても悲惨な状態に、店長からは怒られたがそれはいい。喜んで受け入れた。
だって!雪の笑顔を見られたんだもの!

「ご、ごめんね?邪魔だった…?」
「全然!いつでも来て!待ってる!!」
「!ふふ、良かったー…」

ほっと胸を撫で下ろし、笑顔はそのままに眉を下げる表情を見て今度は目眩がした。
近くのテーブルに手をついた振動で、テーブルに乗っていたお客さんの料理も悲惨な状態になったのは言うまでもない。お客さんの驚いた声を聞いた店長がレジの奥から走ってきた。
今度はあたし専用のハリセンも一緒に。
そしてまた怒られる事になったあたしを、何故か料理を台無しにされたお客さんが庇ってくれると言うよく解らない状況になった一時間後。

服を着替え鞄を片手に、お店の外で待ってくれているであろう雪の所へと急いだ。

「雪!」

此方に気付いて歩みを寄せようとした雪の躰にそのまま飛び付いた。
勢いに押され少しばかり後ろへふらついたがなんとか体勢を立て直す雪は、同じ様に、ぎゅうう、とあたしを抱き締め返してくれた。はあああ。これぞ友人の特権。親しいからこそ許される抱擁。

確りと堪能した後、次いで少し躰を離しては雪の顔を再び視界へ捉え直した。

「それでそれで!今日はどうしたの?お店に来る時はいつも連絡くれてたのに、珍しい、でも嬉しい!」
「突然会いたくなっちゃって、小毬ちゃんは明日何か予定とかってあるかな?」
「ううん?バイトも休みだし家でゴロゴロするか否か迷ってたよ?」
「本当?じゃあ、今日うちに泊まりに来ない?」

おㅤㅤㅤ泊ㅤㅤㅤまㅤㅤㅤりㅤㅤㅤ!?

願ってもないお誘いを勿論断る訳がない。
のだが、何処か不安そうに控え目に聞いてくるものだから、彼女を安心させ様と、両手を上げて「行く!行きたい!」と即答した。
だってお泊まりだもの。急なお誘いも雪からなら嬉しいに決まってる。
勢い良く了承したあたしを見て、ぽかーんとしていたが直ぐに笑ってありがとうと言葉を添えた雪。
いいえ、寧ろ此方がありがとう。

急遽決まったこの後から明日まで、スマホの予定アプリに今直ぐにでも書き込み保存しなければ。と思いはしたが、せっかくこうして並んで歩いているのだからそれはとても勿体ない気がして、手にしていたスマホをパーカーのポケットへと押し込んだ。

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