「おかえり、アニータ」
この人が笑顔で迎えてくれるたびに、泣き出してしまいそうになる。私が見世で何をしているかよく知っているはずなのに、それでもこの人は私に微笑みかけて、「おかえり」を言ってくれる。私がただいまと言えるのはこの人がいるからで、帰る場所ができたのもまた、この人がいるからだった。
周りは彼をクラークと呼んだけれど、私は彼をイライと呼んだ。彼自身がそう呼んでくれと言ったのだ。私にクラークと呼ばれるのは、どうにもしっくりこないのだそうだ。試しにクラークと呼ぶと、明らかに複雑そうな顔をする。そして、やめてくれと言っただろうと、困った顔で笑うのだ。
テーブルにはいつもの薬と水の入ったコップ。ついさっき届けられたものだとイライは言う。これを飲めば、私は明日も見世に出なくてはならなくなる。
「アニータ」
呼ばれて顔を上げると、イライは水と薬を口に含み、私に口付けた。頭と腰を引き寄せられ、逃げることができない。ぬるりと舌が入ってきて、口の端から少しだけ水が零れた。流れるようにして入り込んできた薬を飲み込むと、それを確認した彼の唇が離れていった。薄暗い部屋の中で灯るろうそくの灯りに、銀糸はよく目立った。
フードを外して、目隠しを取る。それがいつしか、彼の誘いへの応え方になっていた。透き通った青い瞳は、私に本当にいいのかと問うた。しつこいわと返すように、今度は私から口付ける。
あなたの知らないところで、あなたの知らない男に犯されて、それを見世物にして。それでお金を稼いで、きっと心の中ではなんて汚らわしい女と思っているに違いないと思っていたのに。キスで避妊薬を飲ませて、愛おしげに触れて、愛しているかのように激しく抱くのだから、いっそ勘違いでもしてしまいそう。